「転職するなら貯金すべき」は本当?「家族がいる=転職に慎重になるべき」は正しい?
[最終更新日]2024/07/21
30代、40代のいわゆるミドル世代が転職することが珍しくなくなってきました。
この世代になると、結婚している人や子どもがいる人も多くなります。マイホームを既に購入していて住宅ローンを月々返済している人もいることでしょう。
こうした状況の人が転職するにあたって、「まず貯金を一定額作ってから転職活動を始めるべき」といったアドバイスがされているのを見かけることがあります。家族がいる人は、転職するなら貯金をしておいたほうがいいのでしょうか。
目次
1)「転職するなら貯金が必要」と決めつけないこと
「転職の際に、お金がかかる(貯金を切り崩す)必要がある」というのは、稀なケースです。
なぜなら、以下の理由があるからです。
- 在職中から転職活動を始めれば、無給期間なしに次の職場に勤められる
- しっかりとキャリアプランを練って転職する人の多くは、結果的に「年収アップ」ができている
どういうことか、詳しく見ていきましょう。
在職中から転職活動を始めれば、無給期間なしに次の職場に勤められる
転職=貯金が必要、と考える人の中には、転職とは「一度退職して無職になってから始めるもの」と思い込んでいるケースがあります。しかし、これは非常にリスクが高く、よほどの事情がない限り避けたい転職活動の進め方です。
失業中の人と在職中の人とでは、応募先の企業の受け止め方が大きく変わります。たとえ口に出して言わなくても、失業中の人は「仕事がなくて困っているので、働かせてほしい」と言っているかのように受け止められることがあるのです。
また、一度仕事を辞めて収入が断たれてしまうと、次の仕事が見つかるまでの間は収入源がない状態となります。
当初の予定よりも転職活動が長期化した場合などは、焦りが出てしまい不本意な転職先で妥協してしまうといった判断ミスをしやすくなるのです。
転職活動は在職のまま開始し、転職先が決まったら退職を申し出る。これを基本と考えるようにしましょう。
しっかりとキャリアプランを練って転職する人の多くは、結果的に「年収アップ」ができている
転職するのなら貯金が必要だ、という考え方のもう1つの側面として、転職すると年収がダウンしてしまうことも少なくないという危機感があります。
たしかに、転職して年収が必ず上がるという保証はないので、万が一年収が下がってしまった場合のことを考えて貯金があったほうが心強い、と考えるのかもしれません。
もちろん、一時的に収入が減ることはあるでしょう。入社初年度はボーナスが全額支給されない企業は多いので、たとえば初年度だけは年収が下がってしまう、といったことは十分に考えられます。
ただし、その後もずっと年収が下がった状態が続き、そのことで生活に支障をきたすようであれば、そもそもそのような条件で転職すべきではないのです。
収入を維持したい人は、現状かそれ以上の条件で採用されるようにキャリアプランをしっかりと練っておく必要があります。
参考:キャリアプランとは
キャリアプランとは、あなたが将来に望む仕事や働き方を実現するためのプランニング(行動計画)のことをいいます。
具体的には、以下のようにプランを立てます。
キャリアプランを立てる際、まず「キャリアの棚卸し」を行います。
キャリアの棚卸しで出てきた経験(または知識・スキル)をもとに、あなたが新天地でチャレンジしたい働き方をイメージし、そしてそれを実現するためにどんな行動が必要かを考えていく──という流れです。
キャリアプランは、上記の「キャリアプランの例」にあるように時期ごとに「実現したいこと」と「そのためにやること」を表形式に落とし込むと、そのイメージを整理しやすくなります。
ポイントは、半年や1年ではなく、3年・5年といった中長期的な期間を見据えることです。
今のうちにマスターしておくべき知識・スキルや取得しておくべき資格が出てくるかもしれません。
数か月に1度のペースでキャリアプランを考えておくと、普段においてもキャリアの軸を持てるようになり、迷いのない判断をしやすくなります。
ちなみに、転職後に年収が上がるケースは、決して少なくはありません。金銭の貯えを優先している場合はなおさら、転職活動に本腰を据えて取り組むべきでしょう。
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2)「貯金を増やしてから転職しよう」がハイリスクである理由とは?
会社員は構造上、可処分所得を極端に増やすのが難しいようにできている
多くの会社員は固定給の世界で働いています。もちろん、中には成果によって大きく報酬を伸ばすことができる歩合制の契約になっている人もいるかもしれませんが、大半の会社員は固定給と考えていいでしょう。
すると、たとえば直近の半年よりもこれからの半年で倍の貯金を作る、といったことは現実的に難しいことが多いはずです。
入ってくるお金を増やすのが難しいのですから、出ていくお金を減らすしかありません。つまり節約によって貯金に励むしかないわけですが、よほど無駄遣いばかりしていた人を除いて、短期間で貯金を殖やすのは現実的ではないでしょう。
たとえ会社に1億円の売上をもたらしても、ボーナスを少々上乗せしてもらうといった見返りをもらうのが会社員です。構造上、可処分所得を極端に増やすのは難しいようにできているのです。
転職することに決めたからと言って、急に貯金を増やすのは厳しい人がほとんどのはずです。「貯金を増やしてから転職しよう」は実現できない可能性が高いという意味で、ハイリスクな選択肢なのです。
「準備してから転職活動を始めよう」は、たいてい先延ばしになるので要注意
貯金に限らず、「〇〇を準備してから」「〇〇ができたら」といった条件をつけて転職活動開始を遅らせるのは、あまり得策とは言えません。
転職は多くの人にとって「面倒」なものです。ヘッドハンティングのようなケースを除き、自分から動かない限り企業側からあなたのことを見つけてくれることはまずありません。
新卒採用とは違い、企業説明会や合同面接が大々的に行われるわけでもありません。全ては自分で決めて動き始めなくてはならないのです。
貯金がある程度貯まってから、今の職場で仕事が一段落してから、といった条件を設けていると、転職活動開始を先延ばしする原因になりやすいものです。
「貯金が十分にあるとは言いがたいので、今は転職活動を始められない」と考えていた人がもしいるとすれば、「十分な貯金ができて転職活動を始められる」といった状況になるまでに期間を要する可能性が高いことを念頭に置いておきましょう。
3)家族がいる=転職に慎重になる、は半分が正しく半分が誤り
とりあえず今の会社を続けよう、は現状維持なのか、それとも決断の先延ばしなのか
家族がいて、住宅ローンの返済や教育費の支払いがある人の場合、転職して収入が不安定になるかもしれないリスクはできるだけ遠ざけておきたいと考えるのは自然な心理と言えるでしょう。実際、「家族がいるので転職に二の足を踏み、今の仕事を続けることにした」という決断が結果的に正しいこともあります。
ところが、次のようなケースでは注意が必要です。
たとえば「住宅ローンを返済する必要がある」ことを理由に転職をためらっているとします。この場合、もし賃貸マンションに住んでいたとしたら転職活動に踏み切れたのでしょうか。
賃貸マンションであっても、月々の家賃を支払わなくてはならないことに変わりはありません。家族の人数や住む場所によっては、賃貸のほうが支払額が多くなるケースもあります。
つまり、住宅ローンの返済があること自体は、転職をためらう直接的な理由にはならないはずなのです。
もし転職をためらっているのであれば、こうした理由の裏にある、もっと深い部分の本当の理由を探ってみる必要があるかもしれません。
つまり、いま直面のことだけを考えるのではなく、「これから先の人生」も踏まえたライフプランについてもしっかり検討することが大切なのです。
参考:ライフプランとは
ライフプランとは、人生の中で想定される大きなイベントを考え、お金が必要になるタイミングやその金額を把握して計画をたてることです。
具体的には、以下のプロセスでプラン立てを行います。
上記図の例では、ライフプランの目標として海外旅行、マイカーとマイホームの購入、そして子どもの大学入学と老後資金を挙げており、これら全てを貯蓄でまかなうとしたら毎月24万円の積立が必要となることが分かります。
(※ すでに貯蓄がある場合や積立投資等の資産運用を行っている場合は、この限りではありません。)
ライフプランを立てることによって、「早めの貯蓄が必要になりそうだ」という気づきがあるかもしれません。
または、「転職時の給与条件として、これくらいは欲しい」という新たな希望条件が出ることもあるでしょう。
パートナーや家族のいる方は、転職の際にこれからのライフプランについてパートナー・ご家族の方と話し合うことをおすすめします。
ライフプランを交えての転職活動はパートナー・ご家族の方にとも共有する「共通目標」となり、活動を応援してもらいやすくなるでしょう。
家族のためにもしっかり働きたいという思いは大切にしつつ、問題を切り分けて考える面も必要
住宅ローンの返済を理由に転職をためらっていたかのように見えた上の例では、たしかに転職後に入社した会社が将来にわたって好業績を続けられる保証はありません。
場合によっては、転職せず今の職場に留まっていたほうが、長い目で見たときに生涯賃金が多くなる可能性も否定できないでしょう。
こうした考え方をしてみると、実は目先のローン返済以上に「将来にわたっての経済的不安」が転職をためらわせる要素であることが分かってきます。
つまり、数年後のことだけでなく、長いスパンで見たとき市場性が失われにくい業界であるかどうか、といったことを業界単位で考える必要があるのです。不安になっている本当の理由は、いま働いている業界の先行きについてなのかもしれません。
もしそうであれば、転職先にいまと同じ業界を選ぶべきか、異なる業界へチャンレンジすべきか、といったことが見えてくるはずです。
このように、家族のために働きたいという思いは大切にしつつも、転職に際して発生する問題や不安要素と家族の状況はあえて切り離して考えることも必要です。
4)失業給付をもらいながら転職活動をするのは現実的か?
失業給付をもらうための条件を考えておくと、給付制度を活用すべきかどうかが見えてくる
会社員が受け取る月々の給与は、雇用保険料が控除されています。よく「失業保険」と言われているのは、この雇用保険のことです。
会社を退職してハローワークへ相談に行くと、転職先を紹介してもらえる上に失業給付までもらえて至れり尽くせり、と思うかもしれませんが、失業給付はすぐに受け取れるわけではありません。
ハローワークに求職を申し込んだ日が受給資格決定日となり、この日から7日間は待機期間となっています。そこからさらに3ヵ月後から90日間、失業給付金が支払われます。ただし給付期間中は4週間に一度、失業認定を受けなければなりません。
このように、失業給付開始と退職日にはタイムラグがあります。
給付金を受け取りながら就業することは禁じられているので、失業給付を90日間受け取ると仮定すると半年以上もの間、失業給付以外の収入がない状態になります。
「転職するなら貯金が必要」といったことが言われるのは、このためでもあるのです。
ハローワーク以外の転職サイトや転職エージェントを活用して求職活動が可能な人、在職のまま転職活動が不可能ではない人は、失業給付をもらいながら転職活動をする必要はないと言えます。
副業・複業で副収入がある人は失業給付のルールに抵触するので要注意!
ちなみに、失業給付を受給するには原則として「無収入」である必要があります。
たとえアルバイトでも、「就労している」と見なされれば失業給付はストップされるか、下手をすると不正受給と見なされて返還を求められます。
就労とは1日4時間以上の労働を指すので、一般的なアルバイトは全て「就労」として扱われると考えていいでしょう。つまり、失業給付を受け取る以上は「働けない」ということになります。
在職中から副業や複業で副収入があった人は注意が必要です。失業状態とは基本的に無収入の状態のことを言いますので、失業給付を受け取りながら「働いて収入を得ている」のは、たとえ副業レベルであっても問題視される可能性があります。
副業や複業で収入を得ている人こそ、在職のまま転職活動をし、できれば切れ目なく次の職場で働き始めることをおすすめします。忙しく、大変かもしれませんが、副業・複業ができていた人ならタスク管理やタイムマネジメントは得意分野のはずです。あくまで在職のまま転職先を見つけることに集中しましょう。
まとめ)貯金は現実的な策とは言いがたい!働きつつ転職活動を進める覚悟を持とう
世の中の会社員、特に家族がいて子育てに奔走している人であればなおさら、カツカツの状態で生活しているという場合もあることでしょう。
転職は人生の一大事であるのは事実ですが、だからといって「貯金をして、十分な余裕ができてから転職活動を始めよう」と考えているようでは、この先何年間も動けないことになりかねません。
自分だけでなく家族の生活も背負っているから転職は慎重に考えたい、というのも十分理解できる考え方です。ただし、もっと長い目で見たときに、現状維持でやっていく場合と次のステップを目指した場合とでは、この先何年、何十年というスパンで大きく差がついてしまうかもしれません。
転職活動には多大なエネルギーを投じる必要がありますので、どうしても最初の一歩を踏み出すのをためらってしまうことがあります。
そのようなとき、決して「家族」の存在を逃げ道にしてしまわないよう、自分のキャリアプランを冷静に見据え、本当の意味で家族の将来を考えたときにどのような選択をするのがベストなのか、じっくりと考えてみましょう。
たとえ一時期は多忙を極めることがあったとしても、働きつつ転職活動を進めていこう!という覚悟を持つことが大切です。
家族がいる人が転職活動を始める際に注意するポイント
- 転職=退職してから次を考えることではない!在職のまま転職活動を開始しよう
- 貯金を増やしてから転職活動スタート、は堅実なようでいて、実はハイリスクな考え方
- 家族の暮らしを守るため、は転職をためらう本当の理由かどうか振り返ってみる必要あり
- 失業給付を受け取りながらの転職活動には制限も多いことを肝に銘じておこう