希望退職制度には応じるべき? 判断軸とメリット・デメリット
[最終更新日]2024/06/14
会社から希望退職を打診され、応じるべきか迷っていませんか?
希望退職に応じるかどうかは、言うまでもなく今後のキャリアに大きな影響を及ぼす可能性のある重要な決断です。
突然の打診に戸惑ったり、ショックを受けたりしている人も決して少なくないでしょう。
目次
1)そもそも、希望退職制度とは?
希望退職制度とは、会社側が現状の業績や将来の事業計画などの諸事情から、人員整理を目的として退職者を募る仕組みを指します。
会社側から退職を勧告するリストラとは異なり、あくまでも従業員自身の意思を尊重する制度です。
希望退職制度を利用するには、従業員と会社の双方が退職に合意する必要があります。
したがって、希望退職を申し出たからといって必ず承認されるとは限りません。
場合によっては、希望退職制度の利用を申し出ても会社側から引き留められることもあり得ます。
希望退職に応募して退職が承認された場合、雇用保険上の扱いは自己都合退職ではなく基本的に会社都合による退職となります。
ただし、会社から引き留められたにも関わらず従業員自身の意思で退職を決断したと見なされた場合、自己都合退職となることもある点に注意が必要です。
希望退職は、従業員と会社の双方が退職に「合意」したときに成立します。
早期退職制度との違い
希望退職制度とよく混同されがちな仕組みに早期退職制度が挙げられます。
早期退職制度とは、定年前に会社を退職できる制度のことです。希望退職制度と早期退職制度の主な違いは2点あります。
1つめの違いは制度を設ける目的です。
希望退職制度は人員削減を主な目的としていますが、早期退職制度は従業員自身がキャリアの選択肢を広げることを目的としています。
よって、早期退職制度の利用者は退職金を割増とするなど、優遇措置が用意されていることも少なくありません。
2つめの違いは制度が効力を持つ期間です。
希望退職は企業の業績悪化など一過性の理由によって募ることから、特定の時期に限って行われます。
一方、早期退職制度は「誰にでもキャリアの選択肢が常に用意されている」という趣旨の制度のため、一般的に退職時期や対象者の年齢を限定していない点が大きな違いです。
会社が希望退職を打診する目的
会社が希望退職を打診する目的としては、主に2点が考えられます。
1つは人件費の削減です。業績悪化や市場環境の変化によって全社的に人件費の負担が重くなっている場合、会社が取り得る選択肢の1つとして人件費の削減が挙げられます。
前述の通り希望退職は従業員自身の意思によって希望するものであることから、会社にとって辞めてほしくない人材が応募するリスクも孕んでいるのです。
もう1つの目的は、解雇リスクの回避です。
日本の雇用制度は、従業員を保護する色合いが濃いものとなっています。会社側が一方的にリストラを勧告し、勧告された従業員が不当解雇にあたると主張した場合、裁判などに発展するリスクがあるのです。
会社側の都合で従業員を解雇することは会社にとって大きなリスクとなり得ることが、希望退職という選択をする理由の1つといえます。
2)希望退職は拒否できる?
希望退職を打診された人の多くの関心事は、「拒否しても問題ないかどうか?」という点ではないでしょうか。
結論から言うと、希望退職は拒否できます。
なぜなら、そもそも希望退職は従業員自身が希望して応募するべきものであり、会社側が一方的に退職を勧告する性質のものではないからです。応募するよう暗に勧められたとしても、必ず応募しなくてはならないわけではありません。
希望退職を会社側が強制するのは違法行為です。
また、希望退職を拒否したことを理由とする降格・減給や、地方に転勤させるなどの処置も禁じられています。
希望退職制度に応募するよう強く促したり、プレッシャーをかけたりすれば実質的なリストラを変わらないため、違法であるという点を押さえておきましょう。
希望退職の打診に応じるべきかどうかは、応じたことによるメリット・デメリットを把握した上で判断することが大切です。
3)希望退職制度に応じるメリット・デメリット
希望退職制度に応じるメリット
メリット1:通常より多く退職金がもらえる
希望退職制度に応じて退職する場合、早期退職と同様に退職金が割増となるケースが多く見られます。
希望退職は自己都合ではなく、あくまでも会社都合退職として扱われるからです。
割増される金額によっては、再就職先を確保するまでゆとりを持った暮らしが送れます。
ただし、具体的に何割増しになるかは企業ごとの退職金規程によるため、事前に確認しておくことが大切です。
メリット2:失業給付をすぐに受け取れる
希望退職制度を利用して退職した場合、離職後すぐに失業給付を受け取れます。
通常、自己都合退職の場合は最短でも2ヵ月間は失業給付を受け取れません。一方、会社都合による離職の場合は7日間の待機期間が経過すれば失業給付が開始されます。
また、失業給付の給付期間も自己都合退職の場合と比べて2倍以上に伸びるのが大きなメリットです。前述の割増退職金と併せて、離職後の経済的な不安を軽減することに役立つでしょう。
メリット3:今後のキャリアについて考える機会を持てる
希望退職制度の利用を機に、今後のキャリアについて改めて考えるチャンスを得られます。
在職期間中は日々慌ただしく業務に勤しんできた人が大半のはずです。 今後のキャリアについてじっくり考える時間を確保したくても、なかなか時間的・精神的な余裕のない状況だったという人も多いでしょう。
希望退職制度の活用がキャリアにおける大きな節目となるのは間違いなく、一度立ち止まって考えるには絶好の機会といえます。
Case1)会社の早期退職推奨制度によって、これからのキャリアを見直すきっかけになった
(ITシステム開発 43歳 男性 神奈川県)
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2020年5月頃から一気に営業先の派遣切りが始まり、新規での受け入れもかなり少なくなってきて。
当然、会社の業績はみるみる下降していきました。
一般的に、不景気になると企業はまず広告費を削り、その後人件費を削るようになります。
新型コロナ感染拡大による不景気は、とうとう私たち人材紹介業界にも大きな影響を与えるようになってしまったのです。「この先、どうなってしまうんだろう」──という、将来への不安も日に日に増していきました。
そんな状況から、ふと(今までの好調な売り上げは自分の力ではなく、景気が良かっただけにすぎないのかもしれない。)と考えるようになりました。
そうしたコロナ禍による会社の業績不振、そして自身のキャリアへの不安から、私は転職について考えるようになりました。
ピンチはチャンスという言い方があります。希望退職や早期退職を打診される出来事は、多くの人にとってまさしくピンチとして映るはずです。
一方で、希望退職や早期退職に応じるべきか否かという選択を迫られることにより、改めて今後のキャリアを深く見直してみるきっかけを得られることもあります。
上記の体験談では、大手人材派遣会社で支店長として就業していた当時は「目の前の数字に追われていた」というのが実情でしょう。
この状況が続く限り、時間を取って自身のキャリアプランや今後の働き方に思いを馳せるチャンスはなかなか得られなかったはずです。
自身のキャリアを見直す機会を持つことで、適切な判断・選択がされやすくなります。
希望退職制度に応じるデメリット
- デメリット1:一時的に収入が途絶える
- デメリット2:退職日のタイミングを変更できないケースが多い
- デメリット3:再就職先で「ミスマッチ」が発生する可能性もある
デメリット1:一時的に収入が途絶える
会社都合による退職として扱われることで失業給付がすぐに受け取れるとはいえ、在職期間中と全く同水準の給付額にはなりません。
具体的には、退職時点での給与額の5〜8割程度に留まるのが一般的です。
退職金が割増支給されたとしても、一時的に収入が途絶えて預金を取り崩しながら生活しなければならないことに変わりはありません。
また、離職後すぐに再就職しない場合、ブランク期間中は厚生年金の納付がストップすることになります。
この期間が長くなればなるほど、将来受け取れる年金額は減ってしまうのです。長い目で見ると、ブランク期間は最小限に留めることが望ましいといえます。
デメリット2:退職日のタイミングを変更できないケースが多い
早期退職制度を利用する場合、退職日は会社側から指定されるケースがほとんどです。
自己都合退職の場合のように、退職日を会社側と相談して決定するわけではないという点に注意してください。
退職日のタイミングを選べないため、たとえばブランクを空けずに転職するのは困難になる事が多いです。
退職日によっては、会社で加入していた健康保険と国民健康保険の保険料を重複して納付する月が発生するでしょう。
退職日を自分で指定できない以上、こうした不利益を被るのは致し方ありません。
デメリット3:再就職先で「ミスマッチ」が発生する可能性もある
離職後に再就職できたとしても、新たな職場が自分の希望にマッチしているかどうかは不透明です。
再就職先でミスマッチが発覚して不本意な働き方をすることになったり、最悪のケースでは短期間で再び転職せざるを得ない状況に陥ったりする可能性も完全に否定はできません。
このように、早期退職制度の利用が退職理由であっても一般的な転職と同じリスクを負うことになります。
転職には少なからずリスクを伴うため、再就職先でのミスマッチ発覚というリスクを完全に排除できないことは理解しておきましょう。
Case2)会社の早期退職推奨を受けて。これまでの不満もあって転職を決意したが──。
(ITシステム開発 43歳 男性 神奈川県)
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私の部署は、不況のあおりを受けて売り上げ低下の一方を辿っていました。
フロア全体も、何と言いますか、澱んでいましたね。モチベーションもずっと低下気味でしたし、人間関係もややぎくしゃくしていて。
(いつまでこんな状況で働き続けなければならないのだろうか…)そんなことを毎日考えていました。「これから先の人生の希望が、まったく見えない」──そんな状態でした。
そんな折、早期退職勧奨制度による早期退職者の募集が掛かりました。
なんと退職金を上乗せしてくれるという特典付きです。先の理由に加えて、パワハラ気味の上司とのそりも合わずに長年働いてきたこともあって、(もう潮時かな・・)と思い、私は退職希望を出しました。
希望退職・早期退職の推奨は、状況によっては「吉報」のように聞こえることがあります。
上記の体験談にあるように、現状の職場環境や人間関係などに不満が募っている場合はなおさらです。
現状の人間関係をリセットでき、しかも退職金が上乗せされるとなれば、むしろ希望退職・早期退職に応じたくなることもあるでしょう。
しかし、離職後に再就職が待っていることを見落とすべきではありません。
通常の転職と同様に、自身の市場価値や現状の業務知識・スキルが転職市場のもとに晒されることになります。
現職で通用していた知識やスキルが、他社でも必ず通用するという保証はないのです。
希望退職制度や早期退職制度に応募するのであれば、一般的な転職の場合と同じように今後のキャリアプランを熟慮しておくことが大切です。
4)希望退職に応じるべきかどうか迷ったら
希望退職を打診されて、応じるべきか迷ったらどのように判断すればよいのでしょうか。
後悔しない選択をするためにも、次に挙げる3点を実践しましょう。
いちど、自身のキャリアプランを立てておこう
希望退職に応じるべきか迷った際、重要なポイントとして「近視眼的にならないこと」が挙げられます。
退職金が割増になることや、現状の人間関係を一旦リセットできることは手近なメリットと感じられるかもしれません。
一方で、長い目で見たときに「希望退職」という選択がキャリアにおいてプラスに働くかどうかを慎重に見極める必要があります。
中長期的な視点に立って考えるには、自身のキャリアプランを改めて検討しておくことが大切です。
仕事や人生において成し遂げたいこと、将来ありたい姿といった本質的な目標・目的に立ち返り、それを実現する上で有益な選択かどうかを基準に「希望退職」を捉え直してみましょう。
結果として希望退職に「応じる」という判断をした場合にも、再就職する際の志望動機や新たな職場で実現したいキャリアを明確に伝えられるはずです。
キャリアプランの立て方
キャリアプランを立てる際の第一歩は「キャリアの棚卸し」をすることです。
これまでに経験した業務を洗い出し、自分が得意なことや今後も続けたいことは何かを整理しましょう。その上で次にチャレンジしたいことを・実現したいことを考え、キャリアのリストに追加していきます。
ただし、今後チャレンジしたいことが現状持っている知識・スキルでまかなえるとは限りません。
知識やスキル、経験などが不足しているようなら、どうすればそれらを身につけられるのかを具体的にしておきましょう。
ここで導き出した「現状と理想像とのギャップ」が、これから取り組むべきアクションプランとなるのです。
直近の1〜3年といった比較的短期間の目標を定めておくと、やるべきことがより明確になるでしょう。
会社の将来性に目を向けてみる
希望退職に応じず会社に残った場合を想定して、自社の将来性にも目を向けてみましょう。
一定数の人が希望対象に応じることを想定すると、従業員数が減るのは必至です。自身の担当業務に影響が及ぶことも考えられるため、これまでと全く同じ働き方ができるとは限りません。
また、そもそも会社がなぜ希望退職者の募集に踏み切ったのか、背景への理解を深めることも大切です。
中長期的な事業計画にもとづく判断なのか、売上低迷などの事情により切羽詰まって人員削減に踏み切らざるを得なかったのかによって、希望退職者を募る意味合いが大きく異なります。
仮に会社に残る決断をしたとして、安心して働き続けられる環境が維持できるのかどうかを冷静に判断する必要があるでしょう。
退職後の見通しがつくかどうか考える
希望退職に応じて退職する場合、希望する条件の再就職先が確保できるかどうかも慎重に判断する必要があります。
退職時点での実績やスキル、業務経験、年齢など複数の要因が人材価値に影響するため、状況によっては希望通りの条件で再就職するのが困難な可能性もあるからです。
退職後の見通しがつくかどうかとは、すなわち新しい会社で「即戦力」として活躍できるかどうかです。
判断に迷う場合には、あらかじめ転職エージェントなど第三者に相談しておくことをおすすめします。
自己評価はどうしても甘くなりやすいため、現実的に再就職が可能な職場を知るには第三者のアドバイスを聞いておくほうが確実でしょう。
具体的に転職時期が決まっていない場合もキャリア相談を受け付けている転職エージェントも多くあります。
例えば以下に紹介する転職エージェントでは、公式サイト上で「転職時期が決まっていな人もサポート可能」と明記されており、在職中からのじっくり転職に向いています。
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まとめ)希望退職制度に応じる・応じないは、総合的に判断することが重要
希望退職に応じるべきか否かは、「どちらの選択が正解」という明確な答えがありません。
応じることで結果的にキャリアにおいてプラスの効果がもたらされることもあれば、安易に応じてしまったことで後悔する可能性もあるのです。
今回解説してきたメリット・デメリットを参考に、希望退職に応じるべきかどうかを総合的に判断しましょう。
さまざまな可能性を慎重に検討した上で出した結論であれば、今後のキャリアを築いていく上で後悔のない決断となるはずです。