ゼネラリストは今後も必要?これからのゼネラリストに求められる働き方とは
[最終更新日]2024/05/28
日本企業は長らく「ゼネラリスト育成型」の組織といわれてきました。
ところが、近年では特定の分野に関する専門知識を有する人材に注目が集まり、ゼネラリストは昔ながらの人材と見なされる傾向があります。
自分自身がどちらかと言えばゼネラリストタイプと認識している人にとって、これからの時代に適応できるのか不安を感じることもあるでしょう。
目次
1)そもそもゼネラリストとは? スペシャリストとの違い
ゼネラリストとは具体的にどのような人材のことを指すのでしょうか。
また、スペシャリストとの違いはどういった点にあるのでしょうか。明確に説明するとなると、大枠での理解に留まっているケースもあるはずです。
そこで、まずはゼネラリストとスペシャリストの違いについて整理しておきましょう。
ゼネラリストの定義
ゼネラリストは英語のgeneral(全般的な・全体的な)から派生した言葉で、広範囲にわたる知識を持つ人のことを指します。
特定の業務に対して深く専門的な知見を持つというよりは、さまざまな業務に広く通じており、オールマイティに仕事をこなせる能力を備えた人材のことをいいます。
企業においては、いわゆる「総合職」に分類される職種がゼネラリストの代表格とされています。
幅広い知見を持ち、現場全体を広く見回した上で総合的な判断を下すことができることが、ゼネラリストとして求められる資質といえるでしょう。
組織にとって、部門や職種を越境して全体を見ることのできる人材は不可欠です。
物事や状況を多面的に捉える資質は、管理職や監督職、リーダー職を務める上で重要な能力となるからです。
これまで、多くの日本企業が総合職として新卒者を採用する際、将来の幹部候補として育成していくことを前提としてきました。
幅広い視野をもって組織を統轄できる人材は、多くの組織において強く求められてきたのです。
スペシャリストとの違い
では、ゼネラリストと対をなす「スペシャリスト」とはどのような人材を指すのでしょうか。
スペシャリストの語源はspecial(特定の・特殊な)で、特定の業務に関する専門性の高い知識を有する人材を意味します。
一例として、エンジニアのような技術系の職種やデザイナーなどのクリエイティブ職、財務会計の知識に特化した会計士といった職種がこれに相当し、企業においては「専門職」と呼ばれているケースが多く見られます。
ゼネラリストがさまざまな知見を「広く浅く」持っているのに対して、スペシャリストは特定の分野における知見に長けているという違いがあります。
スペシャリストは担当業務で優れた知見を持つ一方で、組織全体を統括するための幅広い知見は持ちあわせていないケースもよく見られます。
そのため、スペシャリストもある程度までは昇進するものの、組織の上層部まで登りつめるのはゼネラリストが多いといわれてきました。
2)ゼネラリストを目指すことで得られるメリットと注意したいデメリット
前項で解説してきたように、ゼネラリストは組織にとって重要な役割を担う存在です。現代においても、ゼネラリストが急に必要とされなくなるとは考えにくいでしょう。
ただし、かつてのようにゼネラリスト型の人材がスペシャリスト型の人材よりも重要視されているとは言い切れないケースも増えています。
そのため、ゼネラリストを目指すのであれば、そのメリットとデメリットを十分に理解した上でキャリアプランを構築していくことが重要になります。
ゼネラリストを目指すことで得られるメリット
マネジメント能力が身につく
ゼネラリストは職種や部門を越境して活躍する機会が多いことから、必然的にマネジメント能力が身につきやすい立ち位置にあるといえます。
企業は事業計画に則ってビジネスを推進していきますので、予算管理や人員配置を適切に遂行できる人材が必要になります。
ゼネラリストはチームやプロジェクト、あるいは部門を俯瞰し、総合的な判断を下す役割を担うことから、マネジメント能力を伸ばしていくことになるでしょう。
もちろんスペシャリストとしてマネジメント能力を伸ばしていくこともできないわけではありません。
ただし、スペシャリストのマネジメントは担当部門内に限定されるケースが多く、ゼネラリストほど幅広い業務領域に携わるチャンスは少ないと考えられます。
企業の上層部への出世が見込める
ゼネラリストは多くの人を束ねる立ち位置で活躍する機会が多いため、管理職や経営層へのステップアップが見込めます。
組織においては上層部に属するほど、自分自身が手を動かす実務よりも全体を統括し人を動かしていく能力が求められるようになっていきます。
幅広い知見を持つゼネラリストは、全体を統括する人材として適任と見なされることが多いのです。
現在でも大手企業の多くが新卒採用時点で総合職採用を入口に設定しているように、経営幹部や管理職候補者の育成においてはゼネラリストを育てる意識が根強く見られます。
仕事へのモチベーションを保てる
スペシャリストが特定の職務に専念するのに対して、ゼネラリストは広範囲の業務に携わる機会が多くなります。
部門間の調整や橋渡し役といった難しい判断を迫られる場面も多い一方で、常に変化する状況に身を置くことになるため、「同じ仕事ばかりで飽きてしまう」といったことは少なくなります。
その結果、仕事へのモチベーションを保ちやすくなるのは、ゼネラリストとして働く上でのメリットといえるでしょう。非定型業務に携わることの多いゼネラリストだからこそ、仕事内容が固定化されにくい面があるのです。
ゼネラリストを目指すうえで注意したいデメリット・リスク
「ゼネラリストは時代遅れ」という意見を持つ会社もある
経済が上向きだった時代においては、ゼネラリストはとくに重宝される傾向がありました。
独自性に富んだ商品を市場に投入すること以上に、商品を安定供給し組織体制を維持することに重きが置かれていたからです。
ところが、近年では社会・経済のグローバル化に伴い、企業は厳しい競争に晒されています。
内部調整能力に長けた人材をさらに量産し続けても、市場において突出した存在になることは難しくなっていると言わざるを得ない状況です。
こうした背景から、ゼネラリストはやや時代遅れな人材と考える会社も増えています。
むしろ、伸びている分野の優秀なスペシャリストを採用し、育成していくほうが将来性を望めると考える企業も多くなっているのです。
実績やスキルを示すのが難しい
前述のように、ゼネラリストは非定型業務を担うケースが必然的に多くなります。
組織内における調整や外部との折衝といった役割は、バランス感覚に優れたゼネラリストだからこそなせる業でしょう。
一方で、ゼネラリストの業務は「人」が関わる要素が占める割合が高くなりやすい傾向があります。
一例として、部門をまたいだプロジェクトを成功に導くには、それぞれの部門長やメンバーへの根回しが必要になるでしょう。しかし、根回しによってプロジェクトを成功へと導いた事実を、数値によって定量的に示すのは容易ではありません。
携わる業務が非定型になりやすい点は、ゼネラリストとしての実績やスキルを示しづらくなるというデメリットにもなり得るのです。
企業にとって、これからもゼネラリストは必要。しかし、求められる働き方を熟知しておくべき
ビジネス環境の複雑化・細分化が進む現代において、スペシャリストが求められる場面はますます増えていくでしょう。
しかし、ゼネラリストが必要とされなくなるわけではありません。
むしろ多くの分野でスペシャリストが増えるにつれて、彼ら・彼女らを取りまとめ、横断的に状況を判断するゼネラリストの重要性は増していくはずです。
ただし、ゼネラリストとして活躍できる範囲や働き方は時代とともに変化していくことを熟知しておく必要があるでしょう。
たとえば、部下の資質や能力を見抜く管理職の役割は、近い将来AIによるデータ分析によって代替される可能性も否定できません。もしそうなった場合、ゼネラリスト人材は「人」にしかできない領域で活躍していく選択を迫られることでしょう。
従来は全員がゼネラリストに近かった組織においても、スペシャリストを増員する方針に切り替えていく可能性があります。
それに伴い、ゼネラリストに求められる知識量やレベルも高度なものになっていくことは十分にあり得るのです。
3)これからのゼネラリストの働き方として意識しておくべきことは?
これからの時代にゼネラリストとして働いていくとしたら、どのようなことを意識すればいいのでしょうか。
重要な点として、従来の「ゼネラリスト」の概念を一度整理し、時代が求める働き方へと自ら再構築していくことが挙げられます。
具体的には、次の3点を意識して働いていくことが求められるでしょう。
時代にあわせた知識・価値観のアップデートが必要
ゼネラリストに求められる知識・価値観が大きく変化した出来事として、新型コロナウイルスの感染拡大は筆頭に挙がるでしょう。
これまでオフィスに出社して対面でコミュニケーションを図っていましたが、感染拡大防止のためにリモートワークやビデオ通話が急速に普及することとなりました。
コミュニケーションの図り方1つ取っても、時代や社会情勢の変化に伴って大きく変わっていくのです。
今後はオンラインで完結するビジネスや、テクノロジーを駆使して推進するビジネスが非IT業界にもいっそう広まっていくでしょう。
そうなれば、従来はゼネラリストだった人材にも技術系の専門職とやりとりできるだけの知識レベルが求められるはずです。
「ゼネラリストはこうあるべきだ」と従来の価値観に囚われてしまうのはなく、時代に合わせて知識・価値観を柔軟にアップデートしていくことが求められます。
ゼネラリストの概念を固定化することなく、柔軟に再定義していくことが重要になるでしょう。
「専門家」ではなく、よき理解者・相談相手になれるよう努める
スペシャリスト人材が増加していくことが見込まれる時代においては、「ゼネラリストの上司・先輩」と「スペシャリストの部下・後輩」といった組み合わせも増えていくことが予想されます。
企業によっては、当初からスペシャリストとして能力を発揮することが期待される中途採用者が入社してくるパターンも見られるでしょう。
専門の業務領域に関しては、スペシャリスト人材のほうが優れた知見・技能を持っているはずです。
ゼネラリストはこうした部下・後輩、あるいは同僚と対等に渡り合うために自身も専門性を身につけようとするよりも、むしろよき理解者・相談相手になる道を選んだほうが合理的です。
場合によっては、スペシャリスト人材が仕事の進め方について悩みを抱える場面もあるはずです。
その際は、ゼネラリストとしての幅広い知見を活かして相談相手になることを心がけましょう。
アドバイスをするというよりも、スペシャリスト人材のスキルや知識に敬意を払い、よき理解者としての姿勢で臨むことが大切です。
現状で満足しない「ハングリー精神」も必要
ゼネラリストは常に時代の風を読み、その時点で必要な対応を柔軟に体現していくことが求められます。
知識や経験が固定化されてしまうと、時代にそぐわない思考や仕事の進め方を押し通してしまうことにもなりかねません。
学ぶべきことは時代とともに増えていきます。ひと昔前まで足で稼ぐことが当たり前だった営業職がマーケティングの知識を求められるように、一度覚えた仕事の進め方が今後も通用するとは限りません。
ゼネラリストにこそ現状に満足しないハングリー精神が必要であり、新たな知識を貪欲に吸収し続けていく姿勢が不可欠なものとなります。
もちろん、1つ1つの知識にスペシャリストほどの高い専門性は求められません。
幅広くオールマイティな知見を持ち、あらゆる状況に対応できるようにしておくことがゼネラリストには求められます。
「これは専門外」「別の業界の話題」と自ら線引きしてしまわず、「いずれ何かの役に立つにちがいない」という姿勢で全方位的に興味関心を持ち続け、情報のアンテナを張り続けていくことが求められるのです。
まとめ)必要とされ続ける「次世代のゼネラリスト」を目指そう
スペシャリストへの注目が高まっている昨今、ゼネラリストとして働き続けていくことに不安を感じていた人もいるでしょう。
今回解説してきたように、ゼネラリストは今後も組織にとって必要な存在であり、重要性が失われてしまうとは考えにくいといえます。
ただし、「自分はゼネラリストだから」「ゼネラリストは昔からこうだと決まっている」といった固定観念を持ってしまうと、結果的に自らの成長を止めてしまうことになりかねません。
必要とされる人材であり続けるためにも、時代の情勢に適応した「次世代のゼネラリスト」を目指していくことが重要です。
そうすることで、スペシャリストから頼られ、テクノロジーとも共存していくことのできるゼネラリストとして、今後も活躍し続けていくことができるでしょう。