生と死に向き合う仕事。総合病院の看護師を退職して、再就職して、今思うことは。|私の転職体験談
転職前
- 職業
- 医療機関(総合病院)
- 職種
- 看護師
- 従業員規模
- 800名
- 年収
- 450万円
転職後
- 職業
- 医療機関(クリニック)
- 職種
- 看護師
- 従業員規模
- 10名
- 年収
- 500万円
目次
詩織さんの転職ストーリー
1これまでの私
総合病院での看護師の仕事は、想像をはるかに超えて大変だったこと。
当時、私は23歳。
看護学校を卒業して、千葉県の民間の総合病院に勤めていました。
看護師になって思ったことは、学生の時に抱いていた「看護師の仕事はきっとこんな感じだろう」というイメージより、はるかに大変だったということです。
その頃私は、実家暮らしでした。
やりがいや人生の楽しみみたいなもの──は、特にありませんでした。
- 私
-
「看護師になれたのだから、看護師の仕事をしっかりと務められるように」
ただ、それだけを意識していました。
なぜなら、私にとって看護師としての仕事は、一分一秒も気が抜けないものだったからです。
私の通った看護学校では、実習形式のカリキュラムがそれ程多くなかったということもあって、私は看護師になるまで採血や注射一本打ったことがありませんでした。
ですが、仕事中では先輩の看護師からは
- 先輩の
看護師 -
「はい、あの患者さん筋肉注射してきて」
と言われて、
- 私
-
「…すみません、やったことがありません」
というと、
- 先輩の
看護師 -
「じゃあ一回見せるね」
といって、あとは自分一人でやらなくてはいけない。
研修は1週間ほどしかなく、その1週間もとても過酷なスケジュールでした。
そして、研修後の実務では当然ながら更に忙しさは増していって。
総合病院の看護師の仕事はまさに、「生と死に向き合う」ことでもありました。
その日元気に挨拶を交わした患者さんが、次の日には亡くなっていたことも幾度とありました。
悲しむ間もなく、次から次へと患者さんの処置と、そしてまだ覚えきれていない業務への予習、復習に追われる日々でした。
その頃、私は勤務が始まる2時間前に職場に行って準備して、終わってからも3時間くらい残って、患者さんの情報収集や、翌日にやる処置内容についての予習をしていました。
もちろん、その時間帯は無給で行いました。
2転職のきっかけ
「自分が頑張らなきゃいけない」という気持ちが、どんどん強まっていって。
辞めようと思ったきっかけは、一言でいうと「身体がおかしくなったから」です。
──頑張りたかったです。
同期でとても仲の良い友達も出来ましたし、先輩たちは厳しくも、とても魅力的な方々でした。尊敬できていました。
先生の方々も気さくで優しい方が良く、職場の人間関係はすごく良かったです。
だからこそ、頑張りたいと思いました。
でも、日勤・夜勤がランダムに訪れる勤怠のリズムに全く慣れることができず、疲れているのになかなか寝付けない日が続き、慢性的に寝不足でした。
食欲も元々細かったのが、更に食べれなくなって。
どんどん痩せていきました。
周りの職員の人たちは、いつしか私と会うと「大丈夫?」と挨拶代わりに聞いてくるようになってきました。
私自身も、患者さんに笑顔で接しようとするときに、「患者さんを安心させるため」という意識がいつのまにか無くなっていました。
そして笑顔の裏側で、暗い表情をした私がいました。
──まるで、自分が患者さんのようになってきてしまっていたのです。
「自分が頑張らなきゃいけないんだ」といつも思っていました。
でも、それすらも今思うとおかしな話です。頑張っているのは患者さんで、看護師はそれを助ける仕事なのに。
患者さんじゃなくて、「自分が頑張らなきゃ」という意識で頭の中は一杯。なんだかもう、本末転倒で──。
「もう辞めたほうが良いかもしれない」と思っていたときに、婦長さんから
- 婦長さん
-
「ちょっと休んだ方が良いんじゃない?」
と勧めてくれました。
婦長さんからは外来や日勤にする選択肢も提示してくれましたが、その時はもう、私の中で挫折感がどうしようもないくらいに強くなってしまっていました。
──そして私は、
- 私
-
「辞めさせてください」
と伝えました。
3転職中
また、看護師の仕事を再開したい。
退職してからは、「まずは身体を整えよう」と、数ヵ月の間はとにかく身体をゆっくり休めることを意識しました。
とはいっても生活もあるので、週3回程コンビニのバイトもしました。午前中だけの、短い時間帯です。
その間も、私は、
- 私
-
(また、看護師を再開したい)
と、思い続けていました。
学生の頃から、ずっと、人の役に立つ仕事、人と接する仕事をしたいと思っていたのです。
そして、その仕事というのは、私にとっては「看護師」の他ありませんでした。
「また看護師として働きたい」と、いつも思っていました。
それから、10ヵ月ほど経ちました。
依然身体は本調子というにはまだ程遠い状態でしたが、それでも退職直後と比べたら大分活力も戻ってきて、私は「とらばーゆ」を使って、近くで求人を出している職場を探し始めました。
今回は総合病院ではなく、クリニックや診療所で求人を探しました。
自分の体力・精神力に合う職場は、夜勤が無く、生活リズムを一定にしていけるところが良いだろうと思ったのです。
ちょうど近所に、求人募集をしているクリニックがあって、早速面接に行きました。
面接には事務長の女性の方が出られて、すぐに
- 事務長
-
「では、〇〇日からお願いします」
と言われて、私の看護師としての次の職場が決まりました。
クリニックに面談に行ってまず思ったことは、
- 私
-
(この狭い空間、少ない人間の環境の中で仕事をするんだ…)
ということでした。
以前の職場は大病院で従業員は800名を超えるところでしたが、今回は従業員8名ほどの職場でしたので。
でも、とにかく頑張ろうと思いました。
4転職後
クリニックでの業務で、新たに気付けたことは。
初出勤の日、先輩の看護師の方から
- 先輩の
看護師 -
「外来(入院施設の無い医療施設)って、これまでやったことありますか?」
と訊かれました。
- 私
-
「あ、いえ…ないです」
そう私が答えると、
- 先輩の
看護師 -
「そうですか。じゃあ、はじめは大変かもしれませんよ」
と言われて。
実際、その通りでした。
なぜなら、そのクリニックは付近の地域でも患者さんが多い、つまり忙しいところだったからです。
患者さんは1日最低60人、多い日は100人が来院しました。
それに対して、看護師は大体2~3名体制で。
明らかに人手は足りず、応対、処置の一連の流れをそうとう効率的に行わないと回りませんでした。
それから、事務長や先生といった経営者の方々もとても厳しくて。
特に、マナー面───患者さんへの応対、接遇についてです。
身だしなみはもちろん、歩き方やドア・カーテンの開け方、それから話し言葉はイントネーション──。
新しく入った看護師さんから古株の看護師さんまで、それら細かい部分についてよく事務長から指摘、注意を受けていました。
以前いた職場は、患者さんの「生と死」に向き合っていくという過酷さと大変さがありました。
でも、今の職場では患者さんへの応対や接遇──、この部分が、慣れるまではとても大変でした。
良かったことは、患者さんとゆっくり話せるようになったことです。
採血や処置をしているとき、患者さんは私たち看護師にいろんなことを話してくれて。
お仕事のことを話されるサラリーマンの方や、日常のことやたまに会いに来てくれる孫のことを嬉しそうに伝える高齢者の方──、そして、話した後には笑顔になって帰ってくれました。
そんな患者さん達と日々何度も接しているうちに、
- 私
-
(患者さんは、話したいんだ…!)
ということに気付きました。
クリニックに来られる患者さんは皆、体調や病気への不安を持たれていました。そしてその不安は、私たち看護師と「ほんの数分」でも話すだけで、解消されていくことも本当に多かったのです。
私はそのとき初めて、クリニックの総合病院とはまた違う「地域に密着した医療のありかた」を知り、そして身を持って体験できました。
それは、私にとっての「看護師としての新しいやりがい」と感じられるものでした。
5その後、どうなったか。
看護師になろうと思ったきっかけと、今感じている「看護師のやりがい」。
母親が亡くなったのは、まだ私が高校生の頃でした。
その時、母親の対応をしていただいた看護師の方をみて、私は
- 私
-
(私も、終末期の看護をやりたい)
と思ったのです。それが、看護師になろうと思ったきっかけでした。
──でも、実際に看護師になってみて、私の身体はそれに合わなかった。
当時を振り返ってみて、前職の総合病院で「患者さんのことを本当に見れていたか」というと、出来ていませんでした。
「患者さんのことを見ていきたい」という気持ちは殆ど行動として伴えずにいて、そしてその気持ちは「自分はこうしなくちゃいけない」「これが出来なきゃ自分はダメだ」という気持ちに占領されていって、いつしか自分、自分、自分、となっていったのです。
ですが、クリニック勤務に変わってから、改めて「患者さんの力になろう」と心から思えるようになって。その気持ちに気付けたときに、とても嬉しい気持ちにもなりました。
そして、自分の体力や気力に見合った働き方ができたこと。──それによって、ようやく気持ちや想いも伴った働き方が出来るようになってきました。
──医療の仕事は、どこに行っても「やりがい」は感じられる。大切なのは、健康面を含めた「自分の状態」。
今は、そう感じています。
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