どうしてあの人と私は好みが違う? そもそも、なぜ人には好みがあるのか?
[最終更新日]2025/02/13

「友達と音楽の好みが全く合わない」「あの人の好きな食べ物がどうしても理解できない」
──私たちの周りには、「好み」の違いがあふれています。
なぜ人それぞれ好みが違うのか、そもそも好みとはどうやって決まるのでしょうか?
目次
1)好みの正体とは?
私たちの「好み」は、単なる感覚や気分ではなく、脳の仕組みによって作られています。
ここでは、好みを決める3つの重要な脳の働きについて、わかりやすく解説していきます。
「これ好き!」と瞬時に判断する扁桃体──第一印象が決め手?

たとえば、初めて会った人に「この人、なんか感じがいい」と思った経験はありませんか?
逆に、「なんか合わなそう…」と直感的に判断することもあるでしょう。
これは、脳の中の「扁桃体(へんとうたい)」という部分が、感情のフィルターとして働いているからです。
扁桃体は、過去の経験や本能的な直感をもとに、私たちが目の前のものに対して「快(好き)」か「不快(嫌い)」かを一瞬で判断する役割を持っています。
また、扁桃体で感じた「好き・嫌い」の感情は、記憶をつかさどる「海馬(かいば)」に保存されます。
そのため、似たような刺激を受けたときに、「これ、前に好きだったからまた好き!」「前に嫌な思いしたから、これはちょっと苦手…」と感じるようになります。
参考文献:「Emotion circuits in the brain」「扁桃体の活性が強いほど、個人の嗜好が強くなる」(LeDoux, 2000)
「もっと欲しい!」と感じるドーパミン──快感が好みを強化する

「この曲、めちゃくちゃ気持ちいい」「このスイーツ、最高すぎる!」
そう感じる瞬間、脳では何が起こっているのでしょうか?
この「最高!」という感覚は、脳内の「ドーパミン」という神経伝達物質の働きによるものです。
ドーパミンは、私たちに「快感」や「幸福感」をもたらす物質で、楽しいことや嬉しいことをしたときに分泌されます。
- 好きな音楽を聴いたとき
- 美味しいものを食べたとき
- 恋愛でときめいたとき
このような場面で、ドーパミンが分泌されると、脳は「これは気持ちいい!」と学習します。
そして、「もっとこの快感を味わいたい!」という気持ちになり、その行動を繰り返したくなるのです。
参考文献:Anatomically distinct dopamine release during anticipation and experience of peak emotion to music
前頭前野の働き──経験が好みを決める?

扁桃体やドーパミンが「直感的な好き・嫌い」を判断するのに対し、より論理的に好みを整理しているのが「前頭前野(ぜんとうぜんや)」という部分です。
前頭前野は、過去の経験や価値観、学習によって獲得した知識を整理し、「私はこういうものが好き!」「これはあんまり好きじゃないかも…」と好みを決めていく役割を持っています。
- 最初は苦手だったコーヒーが、大人になると好きになる
- 初めて食べた時は微妙だったスパイス料理が、何度も食べるうちにクセになる
- 恋愛の好みが、昔と今で変わっている
こうした変化は、前頭前野が過去の経験をもとに、「これは楽しい」「これはイマイチ」と学習を繰り返した結果です。
つまり、好みは一度決まったら終わりではなく、経験によって変わるものなのです。
参考文献:An Integrative Theory of Prefrontal Cortex Function
2)ジャンル別「好みが出る理由」
ここからは、「人によって好みが変わるのは、なぜか」について、「音楽の好み」「人の好き嫌い」「行動パターン」の3つの観点から説明していきます。
音楽の好み──なぜ人によって異なるのか?

「この曲、めちゃくちゃいい!」と思う瞬間もあれば、「このジャンルはちょっと苦手かも…」と感じることもありますよね。
好きな音楽のジャンルやアーティストは人それぞれですが、どうしてこんなに違いが生まれるのでしょうか。
これは、音楽の好みに「遺伝・環境・心理的要因」という3つの要素が複合的に関わっているからです。
① 遺伝の影響──「生まれつき決まってる」こともある
「家族で音楽の好みが似ている」「親が好きな音楽を子どもも好きになる」
なんて話を聞いたことがある人もいるでしょう。
これは、遺伝的な要素が関係していることがあり、「音楽の好みの40〜50%は遺伝で決まる」という研究結果もあります。
参考文献: Genetic Pleiotropy Explains Associations between Musical Auditory Discrimination and Intelligence
② 環境要因──育った環境が音楽の好みを作る
音楽の好みは、育った環境によって大きく変わることもあります。
- 子どもの頃によく聴いていた音楽は、大人になっても好きになりやすい
- 親や友達が好きな音楽に影響される
- よく行くカフェやお店で流れている音楽を自然と好きになる
ちなみに、「この曲が好き」という気持ちを明確にしているのは、前頭前野の働きです。
経験や出来事を脳内で学習・整理し、同じ曲を何度も聴くうちに「どこが良いのか」を把握していくのです。
参考文献:Music and Adolescent Identity
③ 心理的要因──思い出が「好き」を生み出す
「音楽は、感情や記憶を特別な形でつなぐ力がある」といいます。
それゆえに、音楽の好みは「その曲を聴いたときの思い出」とも深く結びつきます。
また、音楽は、私たちの脳の中で「記憶をつかさどる海馬」と「感情をつかさどる扁桃体」を活発にする働きがあるといいます。
人の好き嫌い──なぜあの人は好きで、この人は苦手なのか?

「初対面なのに、この人なんか好き!」と思うこともあれば、「なんとなく苦手かも…」と感じることもありますよね。
実は、人に対する好みも、音楽と同じように「遺伝」「環境・心理的要因」が影響しています。
① 遺伝──私の好みは、遺伝子レベルで決まってる?!
たとえば、人は遺伝的に異なるタイプの人を好む傾向があることが研究で分かっています。
これは、生物がより健康な子孫を残すために進化の過程で身につけた本能的な選択だと考えられています。
② 環境・心理的要因──一方で、人はよく会う相手に対して自然と好意を持つ
「最初はそんなに気にならなかったのに、会ううちに好きになった」という経験がある人もいるでしょう。これは、「単純接触効果(ザイアンス効果)」と呼ばれる心理の法則が働いた可能性があります。
単純接触効果とは、何度も接するうちに、最初は興味がなかったものでも好感を持つようになる心理効果のことです。
例えば、最初はあまり気に入らなかった音楽や人でも、何度も聞いたり会ったりするうちに親しみを感じ、好きになることがあります。
これは、何度も接触することで扁桃体が「安心感」を得る→ドーパミンが分泌され「もっと知りたい」と好意が強化される→前頭前野が「自分の身近な存在」と認識する、というプロセスが発生しているからです。
この効果はマーケティングや人間関係の構築にも活用されており、広告やSNSで繰り返し同じ商品や人物を見ると、無意識のうちに好意を持ちやすくなるといいます。
つまり、上で挙げた「遺伝的な相性」だけで人の好みが決まるのではなく、普段の環境や習慣からも少なからずの影響を受けているのです。
参考文献: Journal of Personality and Social Psychology
行動パターン──性格によって好みの傾向は大きく変わる

心理学のビッグファイブ理論によると、特に「外向性」と「内向性」の違いが、個々の好みを形作る要因の一つとされています。
ビッグファイブ理論とは?
ビッグファイブ理論は、人の性格を 5つの主要な特性(特性論) に分けて考える心理学の理論です。
開放性 |
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---|---|
誠実性 |
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外向性 |
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協調性 |
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神経症傾向 |
|
この理論は、人の行動や感情の特徴を分かりやすく説明できるもので、現代の人格心理学で特に広く受け入れられている考え方のひとつです。
参考文献: Costa & McCrae, 1992
外向性が高い人は、新しい刺激や人との交流を求める傾向が強く、自然の中で体を動かすレジャーや、大勢で楽しめるイベントに積極的になりやすいと言われます。
内向性の強い人は、落ち着いた環境で自分のペースを大切にするため、自宅での読書や映画鑑賞、一人でじっくり考え事をするような活動に魅力を感じやすい傾向があります。
ただし、これはあくまで傾向であり、実際の行動や好みは、その人の経験や気分によって柔軟に変化します。
性格の特性は遺伝と環境の影響を受けて形成される
性格の形成には遺伝と環境の両方が関わっていると考えられています。
たとえば、双子を対象とした研究では、外向性や神経症傾向などの性格特性の40〜60%が遺伝によって説明される一方で、家庭環境や教育、文化的背景などの影響も大きいことが示されています(Bouchard & McGue, 2003)。
つまり、たとえ遺伝的に似た性質を持っていたとしても、育った環境が異なれば性格の表れ方は変わる可能性があるのです。
こうした性格の違いは、「アウトドア派」「インドア派」といった行動の傾向だけでなく、「何が好きで、何が苦手か」という個々の嗜好にも大きな影響を与えます。
参考文献: Genetic and environmental influences on human psychological differences
3)そもそも、なぜ人には好みがあるのか?
生物学的視点──「個性があるほうが、生き残りやすい」

もし、みんながまったく同じ食べ物や環境を好んでいたら、何が起こるでしょうか?
例えば、ある地域で特定の食材しか食べない人ばかりだと、その食材がなくなった瞬間に全員が生存の危機に陥ってしまいます。
だからこそ、生物は「みんなが同じものを好む」のではなく、「個体ごとに好みがバラバラであるほうが、環境の変化に対応しやすい」ように進化してきたのです。
参考文献: Evolutionary Psychology: The New Science of the Mind
「好みの違い」が、経済や文化を豊かにする

好みの違いは、経済活動や文化面でも大きなメリットをもたらします。
誰もが異なるニーズを持っているからこそ、さまざまな商品やサービスが生まれ、新しいアイデアが社会に普及する余地が生まれます。
音楽もファッションも映画も、みんなが同じものを求めていたら発展のスピードは落ちてしまうでしょう。
違う好みに触れることで、自分の視点が広がり、価値観が豊かになるというのは、多くの人が体感的に知っていることではないでしょうか。
- 「音楽の好みが違う友人に紹介されて聴いてみたら、意外とハマった」
- 「普段はアウトドアに興味なかったけど、一度体験してみたら魅力に気づいた」
こうした経験が、新しい文化やアイデアの創出を後押ししてきた背景には、まさに好みの多様性が存在しているのです。
「もし周りの人たちが、私とまったく同じ好みだったら」を想像してみる

もし周りの人たちが、あなたとまったく同じ好みだったら、どうなるでしょうか?
好きな音楽も、休日の過ごし方も、ファッションセンスや食べ物の嗜好までも完全に一致し、衝突やストレスは少なくなるかもしれません。
けれども、それは同時に「新しい刺激」や「意外な学び」が大幅に減ってしまう世界でもあります。
自分とは違う視点や感性に触れる機会がほとんどなくなり、「あえて挑戦してみよう」「ちょっと覗いてみたい」と思うきっかけは失われてしまうでしょう。
たとえば友人が自分とは異なる好みを持っているからこそ、これまで興味のなかったジャンルの映画や音楽を知ることができたり、別の味覚や文化に触れたりと、日常がより豊かになります。
人それぞれの「好き」が違うことで生まれる化学反応は、お互いの世界を広げ合い、新たな楽しみや価値観を見つけ出す大切なチャンスといえるのです。
言い換えれば、人は他者の好み・志向に影響を受けながら、自分自身の日常を豊かにしていける生きものだとも言えます。
たとえ最初はピンと来なかったものでも、誰かの「推し」を試してみることで新たな一面に気づいたり、その道の奥深さに惹かれたりするかもしれません。
私たちは「好き」の多様性があるからこそ、ときに人との出会いがたまらなく面白く、そしてこの世界を飽きることなく、生きていけるのではないでしょうか。
まとめ)違うからこそ広がる世界──好みが織りなす多様性のチカラ
好みは「遺伝」「環境」「心理」「社会的要因」が複雑に影響し合って決まります。
音楽、食、異性の好みなど、ジャンルごとに異なる要因が存在しますが、共通して言えるのは「多様であることが自然」だということです。
私たち人間は進化や学習、そして社会的なつながりの中で、常に好みを変化・更新し続けています。
「好みが違う」という事実は、ある意味ではお互いを理解するための大きな手がかり。
自分とは異なる背景や価値観を知ることで、発想を広げたり、新たな可能性を切り開くきっかけになるかもしれません。
好みの違いを認め合い、受け入れること。
それは私たち自身の人生や人間関係を豊かにし、社会全体の多様性と創造性を支える大切な鍵となるのです。