一社のみ・転職回数ゼロはリスクあり?これからのキャリア・転職を考えたときの注意点
[最終更新日]2024/06/14
ほんの20年ほど前まで「転職」に対する世間の風当たりは強く、一社で長く勤めるのが良いこととされていました。
終身雇用が事実上崩壊し、定年がさらに引き上げられるとも言われている昨今では、転職はごく一般的なキャリアの選択肢となりつつあります。
皆さんの中には、新卒からずっと一社で勤めてきた人もいるでしょう。
転職経験がないのはリスクなのか、このまま今の職場に勤め続けたほうがよいのか、迷ったことがある人もいるかもしれません。
目次
1)年代別の平均転職回数はどのくらい?
はじめに、年代別に見た場合の転職回数を確認しておきましょう。
下表は、現職が初職(転職回数0回)の人の割合です。
全体で半数以上の人が転職回数ゼロとなっており、24歳までに転職したことがない人の割合は8割近くにのぼっています。
一方、転職経験が一度もない人の割合が最も低いのが35〜44歳で、半数以上の人は転職経験があることが分かります。
「一社のみ経験」の人の年代別割合
年代 | 現職が初職(転職回数0回) |
---|---|
総数 | 56.1% |
15~24歳 | 79.6% |
25~34歳 | 56.6% |
35~44歳 | 44.6% |
45~54歳 | 52.3% |
参照:総務省統計局「就業構造基本調査 / 平成29年就業構造基本調査 / 全国編 人口・就業に関する統計表」
では、具体的な転職回数はどのような分布になっているのでしょうか。
下図は20〜50代の転職回数を年代別に表したものです。
全年代において転職経験なしの人が最も高い割合を占めており、次いで転職を1回経験したことがある人が多いことが分かります。
年代別の転職回数
参照:リクナビNEXT「転職回数が多いと不利?年代別の転職回数と採用実態」
以上のデータをまとめると、次のことがいえるでしょう。
- 年代に関わらず最も割合が高いのは、転職回数ゼロ
- 次いで割合が高いのが転職回数1回
- 年齢が高くなるにつれて転職回数ゼロの人の割合は低くなっている
- 転職回数ゼロよりも1回以上の割合が高くなるのは30代以降
このように、転職経験がないのは決してめずらしいことではありません。
全年代を通じて、転職回数が0回の人は一定数存在しているのです。
2)一社しか経験していないのは良くないこと?
転職経験がなく、一社しか勤務経験がないのは良くないことなのでしょうか。
この点を考える際に重要な視点として「キャリア形成」が挙げられます。
転職することを通じて視野が広がったり、職場によって多様な働き方・考え方があることを知るチャンスを得られたりします。
A社で培ってきた業務知識の中には、A社でしか通用しない知識・スキルもあれば、A社以外でも通用する知識・スキルもあるはずです。
他社に転職した場合、このことを実体験によって確認できるため、キャリア形成の視点でいえば複数社で勤務経験があることは強みといえます。
ただし、同じ環境で働き続けていたとしても、知識・経験が固定化されたり成長が鈍化したりするリスクを回避できるのであれば、必ずしも転職という手段を選ぶ必要はありません。
部署異動や担当業務の変化によって、多様な環境に適応する機会を得られるようなら、転職回数ゼロ=リスクとはならないでしょう。
一社のみで働き続けるメリット
- 転職失敗のリスクがない
- 会社の人たちとの人間関係を深めていくことができる
- (場合によって)昇進・昇格がしやすい
同じ職場で働き続ける以上、転職に失敗するリスクを抱える心配がありません。
転職は少なからずリスクを伴うため、現状よりも待遇や就業環境が悪化するリスクを回避するには「転職しない」という選択も取り得るでしょう。
また、同僚と長年にわたって関係性を築けることから、深い人間関係を構築できるというメリットもあります。
転職すればいったん人間関係はリセットされることになるため、再び信頼関係を築いていかなくてはなりません。
一社で長く勤め続けていくことにより、昇進・昇格のチャンスに恵まれるケースもあります。
ただし、このメリットに関してはその職場で十分な成果を挙げ、信頼を獲得していることが前提です。一社に長く勤める=昇進・昇格できるとは限らない点に注意しましょう。
一社のみで働き続けるデメリット・リスク
- 業務内容によっては、スキルアップ・キャリアアップが鈍化する場合も
- 年齢の経過とともに、転職・ジョブチェンジの難易度が高まる
- 自身のスキルレベル・市場価値を見誤る可能性
- いちど低評価を受けた場合、挽回が難しいこともある
職場環境や業務内容が長年にわたって固定化されていると、スキルアップやキャリアアップを図る必要性を感じにくくなります。
こうした期間が長くなればなるほど転職の難易度は高まっていくため、結果的に「転職したくてもできない」という状況に陥るリスクがあるのです。
また、同じ職場で就業年数が長くなるにつれて、必然的に業務への「慣れ」が生じます。
単に慣れていることで業務を難なくこなせているにも関わらず、まるで自分のスキルが優れているのように錯覚しやすくなるのです。
結果として実際以上に自身のスキルレベルを過大評価してしまい、人材としての市場価値を見誤る恐れがあります。
スキルの鈍化や市場価値の見誤りは無自覚のケースも少なくないため注意が必要です。
さらに、就業環境が固定化されていると評価も固定化される傾向があります。
何らかの原因で低評価を受けることになった場合、挽回するのは至難の業というケースも少なくありません。一社で働き続けることは「失敗できない」というリスクも孕んでいるのです。
3)思い当ったら要注意。一社しか知らない・転職回数ゼロの人によくある傾向
一社しか知らない・転職回数ゼロの人によくある傾向として、具体的なエピソードを紹介します。
もし次のような特徴に思い当たる節があるようなら、転職経験がないことのリスクやデメリットの面に該当している可能性があるため要注意です。
ケース1:中途入社の社員に対して知らず当たりがきつくなってしまう
エピソード:業界特有の用語を当然のように使っていた(塾講師|わたるさん|男性・32歳のケース)
新卒から教育業界一筋で、ずっと講師をしてきました。
新卒採用が多い当社にはめずらしく、昨年は中途採用者が入社してきました。
これまで異業種で働いてきた方で、私よりも1歳年下のAさんという男性です。
私はAさんと年齢が近いこともあって、Aさんのメンター役に選ばれました。
メンターを引き受けて間もなく、私はAさんに対して苛立つことが多くなっていきました。
Aさんはごく基本的な、社会人として当然知っているべきことさえよく知らなかったりするからです。
あるとき「先月の超勤はもう報告しましたか?」と尋ねたところ、不思議そうな顔をしていました。
「チョーキン、ですか?」と聞き返してくるのです。
「前の職場でも、超勤は毎月報告していましたよね?」とも聞いてみましたが、どうも返答が要領を得ません。
私は「当たり前のことさえ知らないのか」とすっかり呆れてしまい、しだいにAさんにきつく当たることが増えていきました。
後で知ったのですが、残業時間のことを「超勤(超過勤務)」と呼ぶのは教育業界特有の慣習とのこと。
異業種出身のAさんは、私が残業時間について話していることが理解できなかったのでしょう。
私は業界特有の用語を当然のように使って、無意識のうちに異業種出身の後輩にきつく当たっていたのです。
業務知識とは、大きく3種類に分類されます。
- ① 世の中で一般的に通じる知識
- ② 業界特有の知識
- ③ 自社で独自に使われている知識
上記のエピソードは②に該当する知識を①と思い込んでいた事例です。
人は、自分にとって「当たり前」と思える知識について相手が知っていなかったとき「自分と同類ではない(別の部類である)」という認知を持ちやすいです。
ときに、相手のことを「常識がない」「知識不足」と誤解してしまうことがあるでしょう。
しかし、同じ業界・同じ企業で働き続けている以上、自身が日頃扱う知識(またはちょっとした言葉使いも含め)が①~③のどれに該当するのかを意識する機会はほとんどありません。
エピソードにあるように、業界ルール・自社ルールを世間一般の常識と思い込み、知らず知らずのうちに独りよがりになってしまう恐れがあります。
ケース2:社外の人との話が合わない・合わせられない
エピソード:交流会に出て、はじめて自分の無知に気づいた(人事|あずさん|女性・30歳のケース)
新卒で入ったWebサービスの会社で人事部として配属され、7年働いてきました。
あるとき、上長から「人事部同士の他社交流会があるから、参加してきて」と言われたんです。
はじめての経験でしたし、もともと人と話すのは好きな方でしたので、結構楽しみにしながら参加したんですね。
ですが、会場で他社の人事部の方たちと話していて、「あ…、これは無理だ」と思いました。
皆さんの話題の多くは「評価制度をいかにより良くしていくか」「タレントマネジメントをどうするか」であったり、そのほか組織変革やDX推進だったり…。ふだん私が全く意識していない事柄ばかりで、まったく話についていけなかったのです。
思えば私の普段の業務は総務や事務寄りの仕事がメインで、人事のもっと戦略的なことはやったことがなくて。(うちの会社では、社員評価は各事業部のマネージャーが行っていました)
業務自体もそうですが、それよりも私自身が「人事について何も知っていなかったんだ」ということに気付かされて。
結果的に、このままではダメだと自覚できたので良かったですが、その日はかなり落ち込みました。「自分って、全然ダメだな…」って。
担当部署や役職の呼称は同じでも、企業が違えば業務内容や注力している仕事が大きく異なるケースは少なくありません。
エピソードにあるように「人事部」と名がついていても、実は定型的な業務しか経験していないということは十分にあり得ます。
同じ会社に勤め続けていると、自社で任せられている業務がその分野の業務範囲の全てであるかのように錯覚しがちです。
たとえ経験年数が長くなっても、実際にはごく一部の領域しか業務に携わっていないことも考えられます。いざ転職しようと思い立ったとき、これまで培ってきた経験が大きく偏っていた事実を突きつけられる結果にもなりかねません。
エピソードではたまたま他社交流会という機会を得ることができましたが、社外の「風」に当たるチャンスは実はそう多くないでしょう。気づかないうちに知識やスキルがガラパゴス化している恐れもあるのです。
ケース3:「もし転職することになったら」「会社が倒産したら」の不安がかなり大きい
エピソード:自分の本当の市場価値が分からず不安(メーカー営業|こうじさん|男性・37歳のケース)
メーカー営業として15年間勤め、ここ数年は担当顧客をいくつも任せてもらえるようになってきました。
一見すると営業として順風満帆なキャリアのようですが、30代に入ってから年々不安が大きくなっています。
目標管理を取り入れている当社では、上司による評価と自己評価が50%ずつ人事考課に加味されます。
人事考課の時期が近づくと、その年の自己評価を目標管理表に記載して上司へ提出することになっているのです。
手前味噌ですが、私は目標管理表の書き方を熟知しています。
上司が重視している評価項目は事業方針によって変化するので、上司の言動から評価されやすいと思われる項目に対して重点的にコメントを記載するのです。
すると、上司は「自身の課題を十分に把握している」と判断し、今後への期待も込めた高い評価を付けてくれます。
私はいつしか本来の目標管理の目的から離れ、「目標管理表を記載するテクニック」に走るようになっていました。
その甲斐あってか、上司からの評価は毎回上々です。
しかし、私は日々不安でたまりません。
私が今やっていることは、ひとたび他社に転職したら通用しない小手先のテクニックに過ぎないのでは?という疑念が払拭できなくて。
65歳で定年を迎えるまで、まだ28年もあります。
もしやむを得ず転職することになったら、もし急に会社が倒産したら…。
私の本来の市場価値はどの程度なのか、今の収入を維持できるのか、不安でたまらなくなるのです。
社内での評価は、必ずしも一般的な人材価値と一致していません。現在の職場での評価が社外でも変わらないという保証はないのです。
現在の勤務先である程度評価されている人ほど注意が必要です。このエピソードのように、「現在の職場で評価されるためのノウハウ」に精通していることが評価を引き上げている可能性も否定できません。
転職して評価基準が異なる企業に勤めた場合、これまでとは全く違った評価を受けることも考えられます。
前述の通り、一社に勤め続けること自体が良くないわけではありません。
しかし、転職せざるを得ない状況や倒産などの事態に遭遇した場合に備えて、自身の市場価値や転職できる可能性を客観的に把握しておくことは重要です。
実際に転職する・しないに関わらず、自身の市場価値に関心を持ち続ける必要があるでしょう。
4)一社しか知らない・転職回数ゼロの人がこれから取り組むべきアクション
現状、転職回数ゼロの人は今後どのようなアクションを選択すればよいのでしょうか。
これからのキャリアに向けて取り組んでおくべきことや、意識しておくべきことをまとめました。
次の4つのポイントを参考に、危機感を具体的な行動へとつなげていきましょう。
現在、「学びの機会」がどれだけあるかを振り返ってみよう
仕事を通じてどれだけ成長できているかを考えるとき、参考になるのが「ロミンガーの法則」です。
ロミンガーの法則では、「人の成長を促進する要素とは『直接経験:70% 他者の観察、アドバイス:20% 研修・読書:10%』で構成される」といいます。
他者の観察やアドバイス、読書などの自己研鑽によって自己成長を促すことは不可能ではありませんが、「経験による成長が圧倒的に多くを占めている」ことは理解しておくべきでしょう。
裏を返せば、現状の職場で毎日がマンネリ化しており、新たな経験から学べる機会が皆無だとすれば、成長機会のうち70%を失っていることになります。
この状態が長く続けば続くほど、成長機会の損失は大きくなっていきます。
もし「このまま今の職場にいても、得られるものはほとんどない」と感じるようなら、環境を変えることも視野に入れて動いたほうが良いでしょう。
これからのキャリアプランを立ててみよう
キャリアプランについて考えるとき、「棒高跳び」をイメージすると目的や必要性が理解しやすいでしょう。
優れた記録を持つ棒高跳びの選手であっても、跳ぶべき高さを示すバーが設置されていない状態では高く跳ぶことができません。バーを意識して跳ぶからこそ、自己記録の限界に迫る力を発揮できるのです。
キャリアプランは、棒高跳びで言うところのバーと同じ役割を果たします。
自身が目指すキャリアの方向性を明確に掲げることで、そこに向かって市場価値を高めていくことが可能になるのです。
まずは今後のキャリアプランを明確にし、そのプランを実現するにはどのようなアクションが必要なのかを書き出してみましょう。
日々の業務においてもキャリアプランを念頭に置き、伸ばしていくべきスキルや身につけておくべき業務知識を意識して自己研鑽に励むことが大切です。
キャリアプランはどうやって立てる?
キャリアビジョンは、あなたが未来に「こういう働き方をしたい」というイメージのことです。
つまり、まずキャリアビジョン(目標)を描き、それを実現するためにキャリアプランを立てるということです。
キャリアビジョンとキャリアプランは、以下のように表に落とし込むことによって考えやイメージを整理しやすくなります。
作成のポイントは、近い未来についてはやや具体的に、遠い未来については抽象度を高めて作ることです。
10年後どうなっているかについて、正確に予測することは不可能でしょう。立てたビジョン・プランが大きく変わる可能性は十分にあります。
「キャリアビジョンのイメージが持てない」という人は、さきにキャリアの棚卸しを行っておくことをおすすめします。
以下の記事にキャリアの棚卸しの進め方を紹介しています。興味のある方はあわせてご覧ください。
自分の市場価値を知っておく
キャリアプランを立てたら、次に取り組んでおきたいのは自身の市場価値を把握することです。
社内における現状の評価が、必ずしも一般的な転職市場での人材価値と一致しているとは限りません。場合によっては、社内での評価と実際の市場価値が大きく乖離していることもあり得るのです。
自分の市場価値を客観的に把握するには、まずスキルを棚卸しして現状持っている知識・スキルを洗い出す必要があります。
その上で、「社内だからこそ評価されているスキル」「同業種であれば評価される可能性があるスキル・実績」「業界を超えて通用する可能性がある汎用スキル」に仕分けをしましょう。
重要なポイントとして、「経験年数が長い」というだけの理由で市場価値を高く評価されるとは限らない点が挙げられます。
仮に他社で就業することになった場合、成果につながる活躍ができるかどうか客観的に判断していくことが大切です。
転職を検討している人は、いちど「転職のプロ」に相談を
キャリアプランの策定や市場価値の客観的な分析は可能な限り自分で行っておくことが大切です。
ただし、将来的に転職する可能性があるようなら、第三者としての「転職の専門家」からのアドバイスがあったほうがよいでしょう。
「転職した方がよいかもしれない」と考えた時点で、いちど専門家への相談の機会を持っておくことをおすすめします。
転職の専門家と言えば、キャリアコンサルタント、ヘッドハンター、転職エージェント、それからハローワークの相談員などが挙げられます。
キャリアコンサルタントへの相談は有料になることが多いですが、ハローワークや転職エージェントへの相談は基本無料で行えます。
これまでの転職支援経験と実績から、現時点のあなたにとって最適なキャリアプランや転職のタイミングを提示してくれることもあるでしょう。
たとえば転職サイト「リクルートダイレクトスカウト」では、サービス無料登録後に約4,500名のヘッドハンターの中から「この人にキャリア相談したい」というヘッドハンターに自分で選んで相談できます。
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まとめ)転職回数ゼロのリスクを把握し、正しい危機感を抱くことが第一歩
勤務経験が一社のみ・転職回数ゼロの状態にリスクがあるのは事実です。
しかし、転職経験が必ずしも有意義なキャリア形成に結びつくとは限りません。今後のキャリアを築いていく上で今の状態がプラスになっているのかどうか、じっくり考えてみることをおすすめします。
今回解説してきたポイントを参考に、転職回数ゼロのリスクを把握してください。
その上で、正しい危機感を抱くことがキャリアをより良いものにしていく第一歩となるはずです。現職に留まるか転職するか、どちらか片方が正しい選択というわけではありません。
将来的に「あのときの決断は間違っていなかった」と思えるよう、現状把握と今後のアクションプランの策定に取り組んでみましょう。