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なぜ私たちは、権力者やインフルエンサーの言葉を信じてしまうのか?誤情報や偏った意見に惑わされない対策3点

[最終更新日]2025/03/06

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権力者やインフルエンサーの言葉を信じてしまうのはなぜ?誤情報や偏った意見に惑わされない対策3点

私たちは日々、SNSやニュース、テレビ番組を通じてさまざまな情報に触れています。

しかし、その中には誤情報偏った意見が含まれていることも少なくありません。
特に、影響力のある権力者やインフルエンサーの発言は、多くの人々の間で瞬く間に広がり、時に事実と異なる形で受け取られることもあります。

目次

リビングでテレビを見る家族。テレビでは権力者が演説している。

2025年2月19日に、アメリカの大統領トランプはXに以下の発言をしました。

考えてみてほしい。そこそこ成功したコメディアンのウォロディミル・ゼレンスキーは、米国に3500億ドルを費やすよう説得し、勝てない戦争、始める必要もなかった戦争、そして米国と「トランプ」なしでは決着がつかない戦争に突入させたのだ。

<中略>

──さらに、ゼレンスキーは我々が送ったお金の半分が「行方不明」であることを認めている。

引用元:https://x.com/TruthTrumpPosts/status/1892240768880062677

ここで注目すべきは、「ウクライナに送られた資金の半分が行方不明」という発言です。これは事実なのでしょうか?

この発言に対して、日本の著名人やインフルエンサーたちの多くも反応し、SNSなどで引用しています。しかし、その多くはトランプ氏の言葉をそのまま紹介するにとどまり、事実確認は行われていませんでした。

ゼレンスキー大統領「支援資金の半分が行方不明」発言の真偽

結論から言うと、ゼレンスキー大統領が「ウクライナに送られた資金の半分が行方不明だ」と明言した記録はありません。

ゼレンスキー大統領が実際に言及したのは、ウクライナが受け取った対米支援額と、米国が承認した支援総額の差についてです。

例えば、2025年2月1日のAP通信とのインタビューでは、米国議会がウクライナ支援に約1,770億ドル(約20兆円)を承認したものの、実際にウクライナが受け取ったのは約760億ドルであると説明しています。
これは、支援の多くが現金ではなく武器や装備などの現物で提供されているため、数字上のギャップが生じているという意味でした(※1)。

また、アメリカのファクトチェック機関「FactCheck.org」は、トランプ氏の発言について「ゼレンスキー氏の実際の発言内容を歪曲したもの」と指摘しています(※2)。

※1 参考文献:Ukrainska Pravda “Zelenskyy: Ukraine received US$76 billion out of US$177 billion approved by America”
※2 参考文献:FactCheck.org “Trump’s False and Misleading Ukraine Claims”

情報が独り歩きすることのリスク

一度信じられた情報は、誤情報だと判明しても簡単には覆らない。

メディアやSNSで一度引用された発言は、元の文脈や正確な意図から切り離され、断片的な情報だけが拡散してしまうことがあります。

例えば今回のトランプ氏の発言も、ゼレンスキー氏の実際の説明とは異なるものでしたが、多くの人がその発言を事実だと信じ込んでしまいました。

刺激的で感情的な内容ほど、情報は急速に拡散されやすくなります。また、一度信じられた情報は、後になって真実が明らかになっても簡単には覆りません。

実際に、誤った医療情報によって不適切な治療法が選ばれたり、デマによって経済が混乱したり、政治的な誤解が社会の分断を深めたりする事例は、これまでにも何度も繰り返されています。

こうしたリスクに対して、私たちはどのような対策を取ることができるでしょうか。

ここで一度、「なぜ人は誤情報を信じてしまうのか」という問いに向き合ってみましょう。

私たちは、政治家や芸能人、有名企業のトップ、さらにはフォロワー数の多いインフルエンサーなど、いわゆる“権威”を持つ人物の発言を重要視しがちです。

そしてこの傾向は「権威バイアス」と呼ばれ、人間の本能的な性質に深く関わっているのです。

権威バイアス──「権威あるものの意見」に従うのは、人の生存本能のひとつ

指導者の判断に従うことで生存してきた歴史から、本能的に権威者の発言を信じてしまいがち

「権威バイアス」とは、人が本能的に権威者の意見を重視し、従おうとする心理的傾向のことです。

進化の過程で、人類は経験豊富なリーダーや知識を持つ指導者の判断に従うことで生存確率を高めてきました。
たとえば、狩猟採集社会では、食料の採取や天候の予測に詳しい年長者の言葉に従うことが、生存に直結していました。
その名残として、現代でも権威ある人物の言葉を直感的に信じやすくなっているのです。

特に、政治家や専門家、著名なインフルエンサーの発言は、多くのフォロワーを持ち、影響力が大きいため「正しいに違いない」と思い込みがちです。

フィルターバブル──私たちは無意識のうちに「都合の良い情報」ばかりを選んでいる

自分の好みに合った情報ばかりが表示され、異なる視点や反対意見に触れる機会が失われること「僕と同意見だな」

私たちが誤った情報を信じてしまう理由の一つに、「フィルターバブル」という現象があります。
これは、インターネットやSNSのアルゴリズムにより、自分の好みに合った情報ばかりが表示され、異なる視点や反対意見に触れる機会が失われることを指します。

例えば、多くのSNSでは、私たちが「いいね」やシェアをした投稿を分析し、それに似た内容を優先して表示する仕組みになっています。

その結果、自分の意見と近い情報ばかりが自然と目に入るようになり、異なる立場の意見を知る機会は減ってしまいます。
このような環境では、たとえ誤った情報であっても、自分の考えに近ければ疑うことなく受け入れてしまいやすくなるのです。

ただ、フィルターバブルの原因はSNSの仕組みだけにあるわけではありません。私たち自身も、無意識のうちに「耳障りのよい情報」を選びがちです。

誰しも、自分の価値観や信念と異なる情報に触れた際には、不快感やストレスを感じることがあります。
そのため、知らず知らずのうちに自分にとって都合の良い情報を集め、反対意見を遠ざけてしまう傾向があるのです。

このような状況が続けば、自分の信じる情報がますます正しいと感じられ、異なる意見を受け入れることがますます難しくなってしまうでしょう。

大前提として、「すべての情報は解釈を伴う」ことを認識する

すべての情報は解釈を伴う。同じ事実でも表現によって印象が変わる|失業率5% = 就業率95%

情報を正しく理解する第一歩は、「すべての情報は解釈を伴う」という事実を知ることです。

私たちが受け取る情報は、常に何らかのバイアスがかかっています。
ニュース記事やSNSの投稿は、発信者の視点や価値観によって編集され、選択的に提示されることが少なくありません。
さらに、私たち自身も、先入観や信念によって情報を都合よく解釈してしまう傾向があります。

また、社会学の研究では、情報の解釈には「フレーミング効果」が影響を与えることが指摘されています(※3)。
フレーミング効果とは、同じ事実であっても、どのように表現されるかによって受け取る印象が変わる現象です。
たとえば、「失業率が5%」という表現と「就業率が95%」という表現は、同じデータを示しているにも関わらず、聞き手に与える印象は大きく異なるものです。

このように、私たちは「事実をそのまま理解している」のではなく、常にフィルターを通して情報を解釈しています。
まずはこれらを理解することで、情報を無批判に受け入れるのではなく、慎重に分析しようとする意識が生まれるでしょう。

※3 参考文献:Tversky, A., & Kahneman, D. (1981). “The Framing of Decisions and the Psychology of Choice.” Science, 211(4481), 453-458.

クリティカルシンキング(批判的思考)を身につける

クリティカルシンキング|何らかの情報に対し、「なぜそう言えるのか?」と考える習慣を持つことが大切。「どう思う?」「データはある?」「自分でも調べてみよう」

情報の正しさを判断する上で持っておきたいのが、「クリティカルシンキング(批判的思考)」です。

クリティカルシンキングとは、「物事を論理的に考え、感情や思い込みに流されずに判断するスキル」のことです。
「批判」という言葉が入っていますが、単に誰かを否定することではなく、「本当に正しいのか?」と疑いながら慎重に考えることを軸とした思考法です。

クリティカルシンキングの具体例

状況 クリティカルシンキングの活用
「○○を食べると絶対に痩せる!」という広告を見た 情報の出典を確認し、科学的根拠のあるデータや専門家の意見を調べる
新しいスマホの購入を検討中に、評価が極端に高い(または低い)レビューが目立つ 誇張やステルスマーケティングの可能性を考慮し、複数のサイトでバランスの取れた意見を確認する
SNSで「○○事件の真相!」という衝撃的なニュースを見た 情報源をチェックし、他の信頼できるメディアと比較して内容の正確性を確認する

クリティカルシンキングの身に着け方

「理由」を深掘りする習慣を持つ

何らかの情報を目にしたり耳にしたりしたときに、「なぜそう言えるのか?」と考える習慣を持つことが大切です。

例えば、「この化粧品は3年連続売上No.1!」という宣伝を見かけたら、次のような疑問を持ち、深く考えてみます。

  • なぜこの化粧品がそんなに売れているのだろう?
  • 「売上No.1」はどのような基準で決められたのだろう?
  • 実際に使用した人たちはどんな評価や感想を持っているのか?

このように理由を掘り下げて考えることで、情報が本当に信頼できるものなのかを判断する力がついてきます。

エビデンス(証拠)を重視する

情報の正確性を判断するうえで最も大切なのは、エビデンス(証拠)を確認することです。

例えば、冒頭で紹介したトランプ氏の「ゼレンスキーは我々が送ったお金の半分が『行方不明』であることを認めている」という発言が本当なのかを確かめるには、公式記録や信頼できる報道機関の情報を調べ、発言が誤解や歪曲なく伝えられているかを検証する必要があります。

また、専門家の意見や権威あるニュースソースを参考にすることで、誤情報に惑わされるリスクを減らすことができます。
偏った情報に振り回されないためにも、一つの情報に頼らず、複数の情報源を照らし合わせる習慣を持ちましょう。

もし「どうしても信頼できる証拠が見つからない」という場合は、身近な人と意見を交わすのも有効な手段です。
異なる視点を持つ人と話すことで、自分の考えの偏りに気づきやすくなり、より客観的に情報を捉えられるようになります。
できるだけ3人以上の意見を聞き、多角的な視点を持つことを心がけるとよいでしょう。

反対意見や異なる視点にも目を向ける

異なる視点にも公平に目を向ける。自分と異なる意見に意識的に触れることで、これまで知らなかった事実や情報を知る機会に繋がる。「この意見にはどんな理由や背景が?」

権力者やインフルエンサーが発信する情報に惑わされないためには、自分が納得できる意見や情報だけでなく、反対意見や異なる視点にも公平に目を向けることが重要です。

例えば、SNSやニュースで自分の価値観や考え方とは正反対の意見に遭遇したとき、私たちはつい感情的になって拒絶したり、無視したりしがちです。

しかしそこで一度立ち止まってみて、「この意見にはどんな根拠や背景があるのだろう?」と疑問を持って、調べてみる。それはきっと、自分と異なる意見に意識的に触れることで視野が広がり、これまで知らなかった事実や情報を知る機会に繋がるはずです。

どんな意見にも、それを支える理由や背景があります。信じがたい意見を持つ人ほど、自分とは全く違った環境や経験を通じて、その考え方に至った可能性が高いのです。

重要なポイントは、目の前にある情報と、それに対して湧き上がった自分の感情を、一歩引いて客観的に見つめることです。
感情が強く揺さぶられたときほど、その背景にはまだ知らない事実や事情が隠れています。過敏になったときこそ、情報の背景をじっくり確認する習慣を身につけましょう。

まとめ)不安やストレスを感じている時ほど、情報に冷静に向き合うこと

まず「不安なときこそ冷静になる」こと

私たちは、不安を感じているときに誤情報を信じやすくなります。
特に、大きな災害や社会不安が広がるときには、デマや噂が一気に拡散しやすくなるものです。

たとえば、新型コロナウイルスの感染が広がったとき、「26~27度のお湯を飲めば感染予防になる」といった根拠のない情報がSNSで拡散されました(※4)。

※4 参考文献:毎日新聞「「お湯を飲んで予防」「ビタミンDやビタミンCが効く」新型コロナ、デマ相次ぐ」

こうした情報は、不安を抱えた人々が「少しでも安心したい」という気持ちで拡散されることがあります。

誤情報やフェイクニュースに振り回されないためには、まず「不安なときこそ冷静になる」ことを意識することが大切です。
「本当にそうなのか?」と一度立ち止まり、情報の出どころを確認する習慣をつけるだけでも、誤情報に惑わされるリスクを減らせます。
また、一つの情報だけを鵜呑みにせず、別の視点からも確かめることで、より正確な判断ができるようになります。

これからの時代、情報を正しく見極める力はますます重要になります。
焦らず、冷静に、そして慎重に。
そうすれば、あなた自身がより賢い情報の受け手となり、周りの人にも正しい知識を広めることができるはずです。

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