「心理学について語れるようになりたい!」はじめての心理学の学び方
[最終更新日]2025/03/30

心理学は私たちの日常に密接に関わる学問でありながら、その全体像を把握することは意外と難しいものです。
なぜ人は、ある行動をとるのか、どのように感情が生まれるのか、人間関係はどのように形成されるのか。──こうした疑問に科学的にアプローチするのが心理学です。
目次
1)そもそも、心理学とは何か?

「心理学」とは、人間の心や行動のメカニズムを科学的な方法を用いて研究する学問です。
19世紀後半までは、主に哲学の一部として扱われてきましたが、実験や観察によって心の働きを測定・分析するアプローチが発展し、独立した学問領域へと確立されました。
心理学は何のためにある?
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自分を深く理解し、より良く生きるため
自分の感情、行動、考え方を理解し、自分らしく生きる力を養う。 -
他者を理解し、良好な人間関係を築くため
他者の心を理解し、共感やコミュニケーションを通じて人間関係を円滑にする。 -
社会の課題を解決し、より良い社会を作るため
心理学の知識を活用し、教育・仕事・メンタルヘルス・社会問題など、現実の課題解決に役立てる。
心理学が独立した学問として存在するのは、それが人々の生活や社会に不可欠な意味を持っているからです。
たとえば、自分の感情や行動パターンを理解し、より良い生き方を模索するためには、自己理解が欠かせません。心理学の知見を活用すれば、自分の思考のクセをつかみ、ストレスへの対処法を学びやすくなるでしょう。
また、他者との関係をスムーズに築くためにも、心理学は大きな役割を果たします。相手の気持ちを推し量るコミュニケーションスキルや、共感の理論は、心理学によってより深く理解されてきました。
さらに社会課題の解決も、心理学の大切な目的の一つです。学校現場での教育方法の改善や、職場のメンタルヘルス対策、犯罪や差別の防止策など、心理学の応用分野は多岐にわたります。
つまり心理学は、自分を知り、他者を理解し、社会をより良くするための強力な道具となるのです。
「心理学」という言葉が使われ始めたのは19世紀後半から
人の心についての探究は古代から続いてきました。
古代ギリシャでは、プラトンが魂の三部分説(理性、感情、欲望)を提唱し、アリストテレスは人間の幸福や徳について考察しました。しかし、こうした探究はあくまで「哲学の一環」として行われていたのです。
心理学が独立した学問として誕生したのは、1879年、ドイツの哲学者ヴィルヘルム・ヴントがライプツィヒ大学に世界初の心理学実験室を設立したときからと言われています。

なぜヴントは、心理学を独立させる必要があると考えたのでしょうか。
それは、人間の心はこれまでの哲学的(思索による理解)なアプローチだけでなく、客観的(科学的な方法)でも研究できると考えたからです。ヴントは「内観法」と呼ばれる手法を用いて、意識経験を分析する実験を行いました。
Tips 「内観法」とは
内観法は、ヴントが確立した心理学の初期の研究手法で、自分自身の心の中で起きていることを意識的に観察し、報告する方法です。
例えば「この色を見たときどう感じるか」「この音を聴いたときどんな印象を持つか」といった主観的な体験を、被験者が言葉で詳しく説明します。
2)心理学が世界に与えたパラダイムシフト|心理学の歴史
心理学が哲学から独立し、実験や観察によって心を解き明かそうとする学問になったとき、世の中はどのように変わったのでしょうか。
ここからは、実際に歴史を彩った心理学者たちの業績を追いながら、心理学の進化が社会に与えた影響を時系列で見ていきましょう。
「心理には【理由・原因】がある」フロイトの精神分析(19世紀末)

19世紀末のウィーン。神経症に苦しむ患者と向き合っていたジークムント・フロイト(1856-1939)は、やがて「心の病には、どこかに原因があるのではないか」と考えるようになりました。
当時、精神疾患は悪霊の仕業や道徳的な欠陥とみなされ、科学的に扱われることはほとんどありませんでした。しかしフロイトは、心の病気を特別なものではなく「治療可能な状態」と捉え、その原因を丁寧に探ることで回復へつなげようとしました。

フロイトは、「人間の心には、自分でも気づかない無意識の働きがある」という新たな視点を社会に広めました。
この考えは精神医学やカウンセリングのあり方を大きく変えただけでなく、文学や芸術の世界にも影響を与え、多くの人々が「心の謎を解き明かすこと」への関心を抱くようになったのです。
「目に見える【行動】をもとに、心を観察する必要がある」ワトソンの構造主義(20世紀初頭)

ジョン・B・ワトソン(1878-1958)は、アメリカの心理学者で行動主義心理学の創始者です。
当時の心理学は、ヴントが提唱した内観法による分析が主流でしたが、ワトソンはこれを強く批判。「心理学は客観的な自然科学であるべきだ」と主張し、目に見える「行動」のみを研究対象とすべきだと提唱しました。
ワトソンの行動主義は、刺激(インプット)と反応(アウトプット)の関係を分析することで、人間行動の法則を発見できるという考え方です。
彼の「リトル・アルバート実験」では、条件づけによって恐怖反応が学習される過程を実証し、行動は生得的なものではなく、環境との相互作用によって形成されることを示しました。
Tips リトル・アルバート実験とは
リトル・アルバート実験は、1920年にワトソンによって行われた心理学実験です。生後9ヶ月の男児「アルバート」を被験者とし、最初は怖がらなかった白いネズミに触れるたびに大きな音を鳴らすことで、条件づけを行いました。
数回の繰り返し後、アルバートは音がなくてもネズミを見ただけで泣き出すようになり、さらに白いウサギや毛皮など似た刺激にも恐怖反応を示すようになりました。
この実験は、人間でも環境によって感情や行動が形作られることを実証し、行動主義心理学の発展に貢献しました。
ただし現代では、幼児に意図的に恐怖を与え、その後のケアもなかった点で倫理的に問題があるとされています。
行動主義の登場により、心理学は主観的な学問から客観的で実証的な科学へと変貌しました。この変化は、教育、マーケティング、心理療法など、様々な分野に革命的な影響を及ぼしました。
「人の心は、周囲からの影響で劇的に変化してしまう」ミルグラムの服従実験(20世紀中盤)

時は流れ、世界は第二次世界大戦へと突入。心理学の領域では、「独裁や大量虐殺といった惨劇が、どのようにして普通の市民を加担させたのか」という問いに直面していました。
スタンレー・ミルグラム(1933-1984)が行った「服従実験」は、まさにこの疑問に挑んだ研究です。
彼はイェール大学で被験者に「学習実験」と称して「学習者」に電気ショックを与えるよう指示し、被験者がその指示にどこまで従うかを調べました(※実際に電気ショックは行われておらず、「学習者」役の人があたかも電気ショックを受けているように演じる実験です)。
被験者は、電気ショックが演出であることを知らされていませんでした。ですが、衝撃的なことに、多くの被験者は学習者が苦痛の声を上げても、実験者の命令に従い、スイッチを押し続けたのです。
これにより、人は権威のもとに置かれると、「倫理観や良心よりも命令を優先してしまう」ことが証明されたのです。
ミルグラムの研究は、その後の社会心理学の発展に大きく寄与し、権威や集団に対する盲目的な服従への警戒心を高めるきっかけとなりました。
「なぜ良い人が悪いことをするのか」という永遠の問いに対する重要な示唆を与えた研究として、今なお心理学の重要な一章を占めています。
「行動だけで、人の心を測ることはできない」ナイサーの認知心理学(20世紀後半)

ワトソンやミルグラムの行動主義によって、心理学は目に見える行動を分析する科学として定着しました。しかし、そこには一つの大きな空白が残されていたのです。それが「人の頭の中で起きていること」でした。
ウルリック・ナイサー(1928-2012)は、この内面のプロセスに改めて目を向ける必要があると考え、1967年に『認知心理学』という著書を発表し、認知革命を引き起こしました。
彼の理論では、私たちが外部から受け取る刺激(インプット)は、そのまま行動(アウトプット)になるわけではなく、脳内で情報処理や記憶の操作が行われていると考えます。
たとえば、同じ刺激を受けても、それをどう解釈するかは人それぞれです。そこには「注意」「記憶」「思考」などの認知過程が存在し、これらを無視しては人の心を正しく理解できないというのがナイサーの主張でした。

ナイサーの新しい視点は、教育の現場での学習法の改善や、メンタルヘルスへの応用など多方面に影響を与えました。
さらに、コンピュータやAIの分野でも、人間の情報処理をモデル化する試みが広く研究されるようになります。そうして「人間は情報を処理する主体的な存在である」という考えが広まり、心理学のパラダイムは大きく塗り替えられていったのです。
「私たちは、自ら幸福を創り出せるのか?」セリグマンのポジティブ心理学(21世紀)

マーティン・セリグマン(1942-)は、アメリカの心理学者で、ポジティブ心理学の創始者として知られています。
1998年、アメリカ心理学会の会長に就任した彼は、「心理学は精神疾患の治療だけでなく、人間の強みや美徳を育み、よりよい人生を構築することにも貢献すべきだ」と提唱しました。
それまでの心理学は、うつ病や不安障害などの精神病理に焦点を当て、「何が悪いのか」を研究する傾向がありました。しかしセリグマンは、「何が正しく機能しているのか」「どうすれば人は繁栄するのか」という問いに注目し、幸福や人間の強みを科学的に研究することを提案したのです。

ポジティブ心理学の特徴は、一般の人々が日常生活で実践できる具体的な提案が多いことです。
例えば、「感謝の手紙」を書くことで主観的幸福感が高まることや、自分の「強み」を知り、それを日常的に活用することで充実感が増すことが科学的に示されています。
また、「マインドフルネス」の実践が精神的健康に良い影響を与えることや、「成長マインドセット」(能力は努力で高められるという信念)を持つことで逆境からの回復力が高まることも明らかになっています。
ポジティブ心理学の社会への影響
セリグマンのポジティブ心理学は、心理学を超えて社会全体に影響を与えました。
教育現場では「ポジティブ教育」として、学力だけでなく幸福感やレジリエンスを育む試みが進められています。企業では従業員の幸福と生産性を両立させる「ポジティブ組織学」が注目され、医療や災害復興支援の場でも前向きな心理を活かすアプローチが広がっています。
ポジティブ心理学の登場により、幸福は単なる運や偶然ではなく、科学的に理解し、培うことができるものだという認識が広まりました。
「人は自ら幸福を創り出せるのか」という問いに対して、ポジティブ心理学は「YES」と答え、そのための具体的な道筋を示したのです。
3)「心理学をもっと学びたい!」と思ったときのおすすめ学習法
学習法① まずは基本から。心理学を理解するための「土台作り」

心理学は非常に広い学問なので、いきなり専門書に挑戦するのは難しいものです。
最初は入門書や概説書から始めましょう。『はじめて出会う心理学』(長谷川寿一著)や『心理学 第5版』(鹿取廣人著)といった日本語の入門書は全体像をつかむのに最適です。
基礎を学んだら、自分が興味を持った分野(発達心理学、社会心理学、臨床心理学など)の専門書に進むとよいでしょう。
また、日本の大学が提供する無料オンライン講座「JMOOC」 (https://www.jmooc.jp/) では、東京大学や京都大学などの心理学講座を受講できます。NHK for Schoolの「こころの時代」 (https://www.nhk.jp/p/ts/X83KJR6973/) シリーズも初学者にわかりやすい内容です。
スマホアプリでは「Udemy」 (https://www.udemy.com/ja/) で日本語の心理学講座が充実しており、初心者向けの「心理学入門」から実践的な「カウンセリング心理学」まで様々なコースが揃っています。
学習法② 「日常に活かせる心理学」からやってみる

心理学は「知識」だけでなく「体験」することで本当の理解が深まります。
例えば、行動主義の考え方を使って、新しい習慣を身につける際に「小さな成功体験」と「ご褒美」を組み合わせてみることができます。認知心理学の知見を活かして、記憶に残りやすいノート術を工夫するのも良いでしょう。
ポジティブ心理学の実践としては、「今日あった良いこと3つノート」がおすすめです。日本語で受けられる 「VIA性格強み診断」 (https://j-pea.org/related-info/via-is/) なども自己理解が深まります。
そのほか、国内のカウンセリングセンターが開催する一般向けワークショップに参加したり、地域のボランティア活動(児童館や高齢者施設など)に参加することで、心理学を実践的に学ぶ機会も得られます。
理論と実践を結びつけることで、心理学の本質的な理解が進むだけでなく、自分自身の成長にもつながるでしょう。
学習法③ 仲間と一緒に。心理学の学び場を見つけよう

心理学は「人間」を扱う学問ですので、色々な人と意見交換することで理解が深まります。
FacebookなどのSNSでも、一般の人が参加できる心理学コミュニティグループがいくつか存在します。X(旧:Twitter)では「#心理学」「#心理学勉強中」などのハッシュタグで同じ興味を持つ仲間を見つけられるでしょう。
各地の心理学カフェや市民講座も活発に開催されています。東京心理教育研究所や日本心理学会が主催する一般向け講演会、「心理学ミュージアム」
(https://psychmuseum.jp/) なども貴重な学びの場です。
書店で開催される心理学関連のトークイベントも入門者におすすめです。
仲間と一緒に学ぶことで、モチベーションも続きます。心理学の学びは長い道のり。気の合う仲間と一緒なら、楽しく継続できるはずです。
まとめ)心理学を知ることは、「新しい世界の見方」に繋がる
ここまでの内容を振り返ってみましょう。
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心理学の定義
人間の心や行動のメカニズムを科学的方法で研究する学問。19世紀後半にヴントが世界初の心理学実験室を設立し、哲学から独立した科学として確立された。 -
心理学の目的
①自己理解を深める ②他者との良好な関係を構築する ③社会課題を解決する、という3つの主要な目的を持つ。 -
フロイトの精神分析
19世紀末、心の問題を「無意識」から説明し、精神疾患を治療可能な状態として科学の領域に引き上げた。 -
ワトソンの行動主義
20世紀初頭、目に見える「行動」のみを研究対象とし、心理学を客観的で実証的な科学に変革した。 -
ミルグラムの服従実験
権威への服従が普通の人々の道徳的判断を覆すことを実証し、人間行動における状況要因の重要性を示した。 -
ナイサーの認知心理学
人間の内的な情報処理過程を重視し、行動だけでなく「頭の中で起きていること」を科学的に研究する必要性を主張した。 -
セリグマンのポジティブ心理学
「何が悪いのか」ではなく「何が正しく機能しているのか」に焦点を当て、幸福や人間の強みを科学的に研究する新しいアプローチを確立した。 -
心理学学習の基本アプローチ
– 入門書による基礎固め、日常生活での実践、コミュニティへの参加という3つのステップで効果的に学習できる。
心理学は、心の謎を科学的に解き明かしながら、私たちの生き方や社会の制度を大きく変えてきました。
フロイトやワトソン、ミルグラム、ナイサー、セリグマンといった研究者の功績を振り返ると、人間の理解が一歩ずつ深まっていった軌跡を感じ取れます。
興味をもった方は、ぜひ自分に合った方法で学び始め、日常生活で活用してみてください。心理学は、あなたの目の前に、新しい世界の見方を開いてくれるはずです。